『パラダイス』マイク・レズニック

投稿者: | 2011年2月19日
パラダイス―楽園と呼ばれた星 (ハヤカワ文庫SF)
マイク レズニック,Mike Resnick,内田 昌之 早川書房
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マイク・レズニックと言えばなんといっても『キリンヤガ』の方が有名だし、数々の賞も受け、そして日本ではそもそも今『キリンヤガ』の方しか一般書店では買えない。それでも『パラダイス』の方が圧倒的に面白い。
より正確に言えば、今この歳になって読み比べてみると、私には『パラダイス』の方が面白く感じた。

ストーリーの要約が下手なのでお約束の、カバー裏の解説の引用

「本当の楽園だったときのペポニにいたかった」ペポニにまつわる話を集めるブリーンに思い出を語る者は、一様にそういう。 惑星ペポニーースワヒリ語で楽園を意味する名前のこの星に、人々はなにを求めたのか? 宝石の眼を持つ大型獣の狩猟に命を賭けた凄腕ハンターのハードウィ ク、独立を望む原住異星人と人類の闘争の時代を生きた女性作家アマンダ……さまざまな時代の生き証人たちが語る、楽園という名の惑星の年代記

SF仕立てではあるけれどこれはアフリカなどに材を取ってそれを語り直してみたものであることはあきらかで、別に作者もそのことを隠してもおらず、そのことの是非はどうでもいい。
『パラダイス』は楽園のように素晴らしいと思った世界に入り込み、結果として止めようのない楽園の崩壊を経験することになった入植者達が、ひたすらそれを 「残念に思う」話だ。「後悔する」「反省する」「言い逃れる」「他人のせいにする」等々山のような態度があり得るし、登場してくる人物たちの中にはそうい う者たちもいるが、実のところ彼らにも原住異星人にもどうにも手の施しようがない楽園の崩壊を「残念に思う」ことしか出来なくなっていくところにこそ、こ の作品の重みと苦味がある。
自分自身が若かった頃には、このあたりが十分理解出来ず、ただなんとなく地味な作品と思っていたのかもしれない。

なぜ自分が『パラダイス』を面白く感じ『キリンヤガ』より高く評価するのか、予想は付いていたが、公平を期すために『キリンヤガ』も読み直してみた。
『パラダイス』は外部から入り込んでいった者たち(分かりやすく言ってしまえば、世界のあらゆるところに自分たちの価値観と武器をかかえて入り込んでいった「西洋人」たち)の視点から描かれており、そういう意味ではむしろ誠意と説得力を感ずる。
『キリンヤガ』は(非常によく出来た連作であることは認めるが)ケニヤのキクユ族自身が語る設定になっており、やはりそこには無理を感ずるのだ。

私としては『パラダイス』が一般書店では入手できなくなっていてレズニックの最良の仕事のひとつが知られないのを、非常に、残念に思う。
古書の価格もそれ程ではないようなので、機会があればぜひ。