FAXについて(1)

投稿者: | 2011年3月20日

理想と現実

本来、仕入れをするかしないかの判断をするのは書店員の重要な仕事です。
自動的に配本されてくるもの以外の仕入れのためには情報が必要です。
全く配本されていないものを新たに仕入れる。配本されたが不足なので追加仕入れをする。品切れになっていたものの重版情報などを確認して再度仕入れをする、等々のためには、版元さんが流してくださるFAX情報は貴重な情報源です。
その観点からすればFAX情報は詳細で、かつ頻繁であることが理想ではあります。
そして(FAXも含め)、どのような情報がどのような形で提供されようとも、受け取った後それをどう扱い、どう読み込むかは書店員の側の責任です。

しかし一方では人間が処理できる情報量には、時間的にも体力的にも集中力の持続の面でも、限界があります。限界に達した時点からあとの情報はひどくおざなりにしか扱えないか、あるいはばっさりと放棄されてしまいます。
書店員も、他の職業に従事している人々と同じように、肉体的にも精神的にも疲れますし、時間切れになることもあります。

たとえば、100サイト巡回

私は私生活でほぼ毎日100~130ほどのインターネット上のサイトを一日数回チェックします。
チェックするというのは「熟読はしていない。読み込む価値がある記事が掲載されているかどうかを素早い流し読みで判断する」ということです。じっくり読んだりさらにリンクを辿ったりする価値があると判断するものは、当然その中の幾つか、ということになります。
機械的にチェックをするということでならこの二倍から三倍くらいのサイトを範囲に入れることは可能でしょうが、そうなると、その中から読む価値があるものを見つけてさらに読み込むのは、おそらく無理になってしまうでしょう。他の仕事をしたり、自分自身のサ イトを更新したりする時間も気力もなくなってしまいます。

私が100サイトを毎日巡るのは好きだからです。
そのサイト中に「必要だから」とか「知っておかねばならないから」という理由のものはほんの少ししかありません。
好きだという強力な動機付けがあっても、ある程度まともな人間生活を送ろうと思ったら100サイトが限界です。
仕事は、たとえ全般としてはどんなに好きであったとしても、やはり個人の趣味よりは好きの度合いが下がります。仕事のために100サイトを毎日巡らなければならなかったら、多分もっとヘトヘトになるでしょう。
私個人はある程度ネットというものに慣れていますから、仕事としてやらねばならなければ、多分やることは可能でしょう。200サイトでも300サイトでも可能かもしれません。
しかし、やり終わってモニタの前を離れる時には、心からほっとすることでしょう。

なぜFAX情報に気を配ることをお勧めするのか

上記の「仕事で300サイト巡回」のような意味合いで、書店員にとって各種の情報は、ひとつひとつをよだれを垂らさんばかりに喜んでなめ回すものではなく処理するものである、というのが現実的な姿です。
処理するものであるいじょうは、出来るだけ処理しやすい形で提供された方が楽です。

私が版元さんにFAX情報のあり方に気を配るようにお勧めしてきたのはそのような意味合いからです。飲み込みやすい形で提供した方が有利であるに決まっていますよということです。
無償で提供されているのにそれにさらに勝手な注文をつけるとか、本来書店員の側の責任で行うべきことを手抜きできるように甘やすことを勧めているわけではありません。

版元さんの側から見た場合、FAX情報を流すことで販売向上につながることを当然期待しているはずです。期待していないなら時間と手間と経費をかけて流さないでしょう。
そうであるなら、書店員の現実に合わせて情報を加工した方が有利であるに決まっています。お作りになっている本はタイトルや装丁を必死で工夫されているのですから、FAX情報だって少しくらい工夫する価値があるはずです。
工夫のない情報は、装丁もなしにゲラのままの作品を売るのと同じようなものです。

再び理想と現実

書店員の中には、版元さんの工夫如何に関わらず怠慢や傲慢が理由でFAXやDM情報を見ない者もいます。残念なことですが、これは事実です。このような書店員に対してはどんな工夫をしても無意味ですから、無視してけっこうです。
しかし、多くの書店員は出来ることなら目を通したいと思っています。
「出来ることなら」という微妙な気持ちに注目してください。
すぐに「やっぱり出来ないや」と投げ出してしまう方へ傾くという意味でもありますし、「やるべく努力は続けている」という意味でもあります。
いかにもいいかげんで頼りないように思われるかもしれませんが、逆から見れば、どちらに傾くかを操作する余地が大いにある、ということでもあるのです。
上記をふまえて次回からは、具体的なご提案をしていきます。

※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
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