書店人はどうしてまともな仕事が出来ないのか

投稿者: | 2011年4月24日

なんだかんだと言っても、結局書店人がまともな仕事をしていないという面は否定できまい、と思っていらっしゃる版元さん・取次さんもおられることと思う。あっさりと言うけれど、その通りである。今の書店人はまともな仕事をしていない。
本を知らない。仕入れに関して目利き出来ない。本を愛する熱意に欠ける。担当分野のデータさえ把握していない。
おおむね、事実である。
ではどうして書店人はそんな風なのか。

情報の多様性が無ければ馬鹿な本ばかりしか売れないと言った前回の話と微妙に矛盾するが、なんといっても本が多すぎるのである。頭ではみなさんも理解しておられるだろうが、本当に、身をもって理解しておられるだろうか?
おそらく日本中で一番アイテム数の多い小売業が、書店である。
改めて言うのも変だが、本は単に本という形が似ているだけで、一冊一冊は全く別のものだ。八百屋がどんなに種類が多く見えようとも、文具屋がその何倍も種 類が多く見えようとも、書店はそんなものではない。平均的な書棚一段には少な目に見ても 25 冊くらいは差せるが、これはつまりその幅の中に
「人参・キャベツ・カリフラワー・ブロッコリー・玉葱・長ネギ・ほうれん草・小松菜・チンゲンサイ・タケノコ・トマト・ジャガイモ・大根・貝割れ大根・もやし・椎茸・舞茸・えのき茸・三つ葉・マッシュルーム・ピーマン・南瓜・冬瓜・ニガウリ・大葉」
が一個ずつ置いてあるということだ。
そしてもちろん、原則としてそれらは一アイテム一個の在庫であり、単品管理で全て補充仕入れをしなければならない。
そして、それが(当然だが)何段も、何段も、ある。どこまでもある。
じっくりと、リアルに、想像してみて欲しい。

さて、そこで当然ながら POS などを利用した管理という話が出てくる。
そうでもしないと管理し切れまい、という面では全く当然であるから、その利点についてはここでは議論しない。議論するまでもない。
しかし実は POS だけでは良い書店は出来ない、という点について正面から語られることは少ないようなので、その点についてだけ触れてみる。
数字なんてものは信用しない、などということを未だに言う書店人もあるが、これはただのバカであるから相手にしなくてもよろしい。小売業をやっている以上数字を見ないなどもってのほかである。
POS は単品を管理するが、それは組み合わせを管理しない、という点が問題なのである。とある商品がどのくらいの回転率であるかということは明確に分かるし、つ いでに自動発注にすればもちろん発注し忘れもない。自動発注では(滅多に売れないものも結局発注してしまうので)無駄が多すぎるというのであれば、プログ ラムに何ヶ月で何回目以下の発注はキャンセルする、というフィルタをかけておけばよい。こうすれば、やがてその書店の棚は設定したレベル以上の商品ばかり がきれいに品切れ無く並ぶ理想の書店になりそうである。

売れないものもそこに無ければ、売れたはずのものも売れなくなる、という組み合わせの妙が存在するという事実を現状の POS は分からない。
あまり高いスキルの話ではないが、わかりやすくするために西村京太郎の文庫本の回転率トップ 10(あるいは店の規模に応じてトップ 30 でも良いが)のみがきれいに並んでいる棚から、西村京太郎の本は驚異的に売れるであろうか?
売れないのである。
なぜなら「ああ、こっちの方が面白そうだ」と比較対照するための売れない本が圧倒的に少なすぎるからだ。人間は目の前に「これが最高品質のものです」と一 個だけ提示されてもそれを納得できない。自分の目で、より品質の劣るものや制限付きのものを確認し、始めて最高品質のものを信ずる。ものを買う気にさせる ためには、比較対照が存在していなければならない。

私はよく初めて担当を持つ人間に、次のようなことを教えた。
価格が安く・内容もまあその程度の物を少し置きなさい。
価格もかなり高く・内容も非常に優れた物を少し置きなさい。
価格が中程度で・内容も中程度の物を多く置きなさい。

非常に単純化しているが、この教えが言っていることは、次のようなことである。
値段も安くて、さっと手に取れ、立ち読み程度でも十分内容が把握できるお手軽な本は、人を引きつけるには適しているが、読者が得られる精神的な満足という面でも、小売店が得られる売上高という面でも、あまりメリットはない。
一方非常に高価で内容もそれなりに優れた物は、高い知的欲求を持った読者を引きつけるし、売り場に箔をつけ読者にはあこがれを呼び起こす効果があるが、実際に売れることはあまり無い。
読者は価格と内容に関して逡巡したあげくに、結局中程度の物を購入していくことが圧倒的に多い。安価だが内容が薄い物を選ばなかったという誇りと、いつか はああいう高価で内容がヘビーな物を読んでやろうとは思うがとりあえず今は(忙しいので・疲れているので・金がないので・・・)これでいい、と自分では向 上心を持った読者であるという密かな自負をも得られる。
とても皮肉で意地悪な見方だと思われる方もあるかもしれないが、そういうつもりは、ない。
物を購入する喜びというものはそういうものなのである。
逆に言えば必要だから買いに来る人に対して必要な物を供給するのが小売店なのではなく、買うことに喜びを感ずるよう配慮するのが本当の小売店の務めなのである。生活必需品とは言えない書籍を扱う以上、書店はまさにこのことに深く思いをいたさなければいけない。
現在の POS では、残念ながらこれが出来ない。
POS あるいはデータを声高に賞揚する人々の一部は(全部ではないが一部は)このことを知らない。

誤解の無いように、繰り返しになるけれども、言っておく。POS やデータを否定していない。それは是非とも必要である。しかし、それがあっても書店人の負担はあまり軽減されないということを知ってもらいたいだけである。
この件については、多分、もう少し続ける。

Tweet about this on TwitterShare on FacebookShare on TumblrShare on Google+Buffer this pageでシェア