なぜ残業をするのか

投稿者: | 2011年4月24日

残業を非常にたくさんする同僚がいる。
早朝から(時には始発電車でやってきて)働き始めることもあるし、正規の営業時間が終わったあと終電まで働くこともある。しかも、しばしばであり、かつ無償である。
どんな企業でも忙しい時期は同じようだとも言えるが、これから話してみたいことはそういうことではない。まして無償で残業をする人間は企業に貢献しているとか、やる気に溢れているとかいうことでもない。

なぜそんなに残業をするのか、本人がかなりはっきりとその理由を述べている。
正規の営業時間には落ち着いて仕事が出来ない
かなり多くの方がこの言葉に、思わず頷くのではないだろうか?
ではこれは取り上げるに値しない、月並みな問題なのだろうか?

あらためてこの発言を、初めて目にしたような気持ちで眺めてみると、とてつもなく奇妙だということに、誰でも気付く。仕事をするために存在している時間帯内ではこの人物は、実は仕事をしていない、ということである。
もちろんこの人物は正規の勤務時間帯内もずっと忙しく働き続けている。事実そうであるし、上の言葉に思わず頷いた多くの方々も同様に違いない。ではこの人物は何が出来ないと主張しているのだろうか?
その言葉が暗に語っているのは、もちろん、質の高い仕事が出来ないということである。
さらに付け加えれば、その人物がそうあるべきと自分に期待する品質レベルの仕事というものが厳然として存在しており、それは企業が与えた環境、つまり時間 量や作業手順マニュアルや作業管理(誰がどの仕事にどのくらい関わって処理すべきかなどの大局的なマネジメント)、では達成出来ないと結論づけているとい うことでもある。

企業が顧客に提供すべきサービスの品質は、実はこの人物の無償の、長時間におよぶ、絶え間ない残業によって維持されているわけである。奇妙奇天烈である。
企業はもちろん明示的にそれを求めていない。
企業が提示するのは、一定の条件(経費などの限界)内で可能な限りの効果を上げよ、という漠然としたものだけだ。
しかし、その一方では「可能な限りの効果を上げよ」という指示にはしばしばかなりはっきりとした目標が設定されている。それは対前年比であったり、総売上金額であったりする。
ここで注目すべきは、多くの企業幹部は「可能な限り効果を上げる」ためには、実は(形ある商品である場合も無形のいわゆるサービスである場合も含めて)サービスの品質が向上しなければならないという現実に目をつぶろうとする、ということだ。
二つの行動(ある人物の無償の残業による品質の維持と、企業による「効果を上げよ」という目標)は現場ではしばしば矛盾してしまうように思われるのだが、実はそうではない。企業が事実上、従業員の熱意と労働を騙し取っているだけである。
そう決めつけてしまうのはいかがなものか、と思われる方もあるだろう。
仕事が出来る、熱意ある人物ほど会社を辞める、という事実を見よう。(100%とまでは言わないが、確実に50%以上の事例でこれは事実である)。
彼らはなぜ会社を辞めるのだろうか?
彼らは仕事がしたいから会社を辞めるのである。
彼らは仕事の品質に対して強い信念を持っている。無償の残業を提供し続けてでもその品質を維持しようと必死で努力する。そのあげくに(彼らも機械ならぬ人 間である以上)限界に達してしまうために、より搾取されずに品質を維持した仕事が出来る企業を求めて去っていくのである。

経営難や経営効率化の名の下に、残業を制限したり、実際には残業をしても残業代を支払わない企業が非常に多くなっている。仕方がない、というもっともらしいが、実に漠然とした合意が企業と労働者の間に出来上がりつつあるようだが、これは間違っている。
サービスの品質維持のためになされた仕事に対しては正当な対価を支払わなければ、それは事実上詐欺である。
また、一方それをまともに支払った場合の経費を計算してみれば、企業の経営方針や戦略そのものがすでに破綻しているという事実に直面する場合もあるだろう。直面することをさけていれば、やがてはその企業は本当にに破綻する。
支払わないことは、実は「経費節減をして企業を生き延びさせる」ことには役立っていないのである。

夢の高効率野球チーム
おそろしいまでに俊足で、注意力が鋭いスーパースター一人だけを外野に配置して人員を節約することは、ギリギリ可能かもしれない。彼なら、やれる。よし、外野手は彼以外全員クビだ。
しかし彼同様の超人的な選手であっても、ファーストとセカンドをかねることは出来ない。非常に残念だ。距離は近くても、自分が投げた球を自分でキャッチす ることは多分できないな(もしそれが出来るなら、球を投げずに持ったまま走った方が速いことになる)。いや、もしかしたらそんな選手が実在しているかもし れない。とりあえず今はがまんしておくが、さがしておくようにスカウトに言っておけ。
よし、これで 9 人じゃなくて 6 人でチームが編成出来た。
6 人しかいないと攻撃の時に打順も早く回って来るという副次的効果に気付いたかね?
1番、2番、3番にすぐに打順が回ってくるから、節約になるだけでなくチーム一人あたりに換算した打撃得点力も上がるのだよ。俺たちは天才だな。
ところでキャッチャーって、なんだか球を受け取っているだけで無駄だと思わんかね?
ファーストに兼任させるという案を検討しておいてくれ。なあに、要はホームベースを踏ませなきゃいいんだからセカンドかサードでアウトにすりゃいいだろ。ファーストなんてくれてやれ。
なに、外野手が怪我をした?・・・まあ、何とかなるさ。外野にボールが飛ばないようにすればいいんだ。そのくらい、我がスーパーチームなら可能だろう。

近頃の多くの企業では、しばしば、ファーストも外野もがら空きである。