『中世への旅 農民戦争と傭兵』:くり返し読む本

投稿者: | 2015年3月14日

4-560-02908-3ランツクネヒトという中世ドイツの傭兵の姿は興味深い。中世が実のところ終わろうとしていたからこそ彼らの存在が生まれ、そして、時代の流れとともに彼らランツクネヒトも行き場を失っていくその有様は、時代が大きく変化する時何が起こるのか感じさせてくれる。

食いつめた農民が傭兵となり、やがて正当な扱いを求めて蜂起した農民と農民出自のランツクネヒトが支配者側に雇われてぶつかり、彼ら双方をそれぞれに指揮する立場で立ちまわる(すでに実質的に滅びていた)騎士階級出身の隊長たちがいて、自分の支配が永久に続くと信じたくて自国民がどんな生活をしているかに目をつぶって外国とくり返し戦争に突入する支配層がいて……結局誰も幸せにはならないまま時代が激流のようにすべてを押し流し、粗野ながら心えぐる傭兵ぐらしの悲喜を歌うランツクネヒトの歌だけが、激流の上に漂い残る。

個々人の理想や思慮ではどうにもならないほどの時代の激しい変化の時というのは、確かにあるなと分からせてくれるとてもよい本だと思うが、残念ながらもう白水社では絶版(長期品切れ重版なし?)らしい。
古書で比較的お手頃値段で入手できることが多いので、この辺の時代の歴史に興味があってまだ未読に人にはぜひおすすめしたい。

ちなみにこのあたりの時代はゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンという有名なある種の化物が活躍した時代でもあり(参考:『鉄腕ゲッツ行状記』白水社)、そういった突出した個性が彼ひとりに限らず輩出したわけだが、その面白さに目を奪われてしまうとちょっとその頃の時代全体の苦しさのようなものを見誤るかもしれない。

というわけで、気づくとなんだか「くり返し読む本」の記事がヨーロッパ中世関係の本ばかりになってきているけれど、まあ好きなんだからそうなっても仕方ない。