『ブギーポップシリーズ』:くり返し読む本

投稿者: | 2015年10月3日

[くり返し読む本]はヨーロッパの歴史にからんだのものばかり続けてきたので、ここらでちょっと取り上げるものを変えてみる。
人によっては失笑して脱力するかもしれないが、いわゆるライトノベルだ。
しかも、ライトノベルとしては、とてつもなく古いので二重に失笑ものかもしれない(とは言え今でもシリーズ新作は出続けているんだけどね)。

978-4-8402-0804-8やさぐれ気分で現実に目をつぶっていたいような時にシリーズ最初の『ブギーポップは笑わない』から延々と読み返し始めることが多いような気がする。

シリーズの中では、

  • 本当はなんの能力もないのに口先と覚悟だけでのちにたいへんな大物になっていく九連内朱巳が初登場する『ハートレス・レッド
  • 結果として世界を救うバカなカップルが愛しい『ホーリィ&ゴースト
  • 上司に惚れたがために過酷な世界を一途に生きる合成人間メロー・イエローがたまらなく可愛い『沈黙ピラミッド

あたりが特に好きだ。
のちのシリーズ展開からすると他の作品の方が「重要」だったりはする。
第一作『ブギーポップは笑わない』のマンティコア事件こそが、のちに延々とシリーズに絡み続けるダイヤモンズのパールが組織を抜けるきっかけになったわけだし、『ジンクスショップにようこそ』でちょっとだけ出てきてなんだかすごそうだけれどさっぱりわからないという印象しか残さないオキシジェンがのちにある種究極の存在として描かれたりする。
しかし、(まことに勝手な邪推だが)それらは最初に登場させた時に消化しきれない感が残ったので後に再度じっくり展開させてみたら結果としてなんだかすごいことになった、にすぎない可能性も高いなぁと思ったりする。「最強さん」ことフォルテッシモの存在もそうじゃないかと思う。
なんだかこういう言い方をしてしまうと作者がいい加減だと言っているみたいだが、ちょっとちがう。面白くなりそうだと思いついたらどんな展開でもためらいなくさせるし、その展開が可能なかぎり辻褄が合うように物語をせっせと作ってしまう上遠野浩平の語り/騙り能力はすごいと思う。大風呂敷を広げるというより、必要かなと思ったら風呂敷そのものをいきなり織り始めてしまうというか。

それはそれとして、コンパクトに綺麗にまとまった単品として、はじめに挙げた三作などは完成度が高いと思う、という意見。その他の大風呂敷的な展開が駄目だ、嫌いだ、ということではない。
まあ私は、バカで健気な合成人間がママチャリで土手を激走する物悲しくも愛しい短編集『戦車のような彼女たち』が大好きだったりするから、世間一般でシリーズのどれが高く評価されているのかとはずれているかもしれないし、そもそもそういう評判を調べてみたこともない。

さて、ライトノベルは多々あれど、なぜ「今でも」このシリーズが好きなのかな。
多分ほぼすべての作品が実質的にはすでに決着がついていて振り返ることしか出来ない状況であったり、自身は直接関われない何かに巻き込まれて、その何かが実はどうなったのかも知ることができないままに終わっていったりさえする、独特の「すでに手遅れ」感、「自分ではどうにもならない」感、なんじゃないかと思う。
これは普通の人間のキャラクターは当然のこととして、なまじ普通の人間をこえる能力をもって活動する合成人間達はそれでもどうにもなりはしないという虚しさをますます噛みしめることにもなり、通常の「人間対なにか」という図式などあまり意味を持たなくなってしまう。
そこから、メロー・イエローと普通の女子高生達が仲良く焼きそばを食べる愛らしいシーンが生まれたり、最強の部類に入ったであろう『パンドラ』のユージンが人間の友人たちのために命を投げ出すことになったりする。

この「どうにもならない」感、「よくわからないけれど大変な何かが通りすぎていった」感、は、『化け猫とめまいのスキャット』以降の近作では特に顕著で、(正直に言えば)ちょっとそっちへどっぷり傾き過ぎなので、楽しく騙されて読めるお話づくりの方へほんの少しバランスを引き戻してもらいたいなぁと思う。まあでも、前向きで感動的な上遠野浩平作品なんてそもそも求めていないんだけどね、どっちにしろ。

というわけで、なぜ「やさぐれ気分で現実に目をつぶっていたいような時に」このシリーズに頭を埋めるのか、自分で書いていてだいたい分かった。
壮大な「どうせね」に飲み込まれて、頑張る理由を探さなくてもいい気分になっていたいからだね、きっと。
作者のあとがきのお約束の言葉でしめておくところだな、ここは。

まあいいじゃん、と。

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