重力使い

投稿者: | 2016年2月20日

疲れてくると、夜の帰り道をトボトボ歩きながら、今ここでひょいと手を振ったら一気に10メートルくらい眼の前のアスファルトが剥がれて飛び散り、道に大きな傷跡が残ったりしたらいいな、と考えたりする。

なぜそういうことが出来るかと言えば、私が重力を操る能力をもっているからだ。
(と、妄想が続くことになっている)。
一時的に道の一部分にかかる重力を弱めることでアスファルトを剥がした。
重力から一気に解き放たれたアスファルトの破片が大蛇のようにうねって宙を舞う。

見た目がもっと派手な能力は色々ある。炎だの、風だの。
しかし、重力を操る能力は工夫次第でずいぶん応用が効く。
細かいやり方なら、相手の足元の地面をごく小さく炸裂させて注意をそらすなどのこともできる。周囲の重力だけ一気に強くして自分以外身動きできなくさせて事実上周辺一帯を制圧してしまうこともできる。
もっと広い範囲に物理的に強いダメージを与えたいなら、周辺のビルに強い重力をかけて倒壊させてしまうというような大災害規模のことすらできる。
一方自分自身に対してうまく使えば、高い建物の上へ一気に跳び上がる、逆に跳び下りて安全に着地する、それどころか継続的に使えば事実上飛び続けることももちろん出来るだろう。
理屈の上では、砲弾だって、ミサイルだって、重力を調整して軌道をずらせるので攻撃を簡単にそらせるはずで、雨あられと砲撃が降る中をゆうゆうと進んでいった挙句に敵陣を一気に壊滅させる、といういささか見栄を張りすぎた行動だって出来るはずだ。

ただまあ…能力を、腕を振る、走る、などの肉体的な動作の延長として発動させているのだとすれば、ある程度以上素早く発動させられない。音を聞くとか、視線を向けるとかいった、非常に肉体的な負担が少なくて素早い反応に連動させられるとしても、たとえばきわめて遠方から気づかぬうちにライフル狙撃される、というようなことに対処できないような気がする。ライフルの弾丸に「気付く」時にはたぶんもう着弾していて、そんな素早いものを重力をあやつって避けられないだろうと思う。
無敵に近い力を持っているかのようで、案外倒される時はあっけない。
(なぜ、何かと大々的に敵対していることが前提なのかわからないが)、無表情のスナイパーが私を一撃で仕留めた後に静かにライフルを分解してケースにしまい始める情景が目に浮かぶ。

いやいや、だから重力を操る能力にはもっと細かな工夫と習熟が必要だ。
たとえば普段から自分の体の周囲数ミリの範囲で常に重力が極端に強い(あるいは弱い)膜のような力場を作っておくというのはどうか…、いやそれでは食事もトイレもやりにくくてしようがない。
ところでそもそもこの重力を操る能力というのは、どのくらいの範囲までどのくらい強力に作用させられるのだろう。能力をどこへどのくらいの強さで作用させるかが、もしも完全に自分でコントロールできるのだとしたら、理屈のうえでは地球の核に作用させて世界の終わりをもたらすことだって出来てしまう。月を地球へ叩き落としたり、逆に他の惑星に向かって弾き飛ばしたりすることもできてしまう。
いやさすがにそれはないだろう。
うーん、ないんだろうか。
ないとすれば、どういう説明がつく理由で、どのような限界があるんだろうか。

などと真剣に悩み始める頃には、たいてい家にたどりつく。
溜息をついて、ちょっと名残惜しいような気持ちで、結局吹きとばさなかった夜道を振り返る。