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01-11


書店のマネジメント

いずれは書こうと思っていていまだに手をつけていないのが,書店のマネジメントについてですね。
漠然とした横文字はよろしくないのでちょっと説明してみると:
書店そのものの質の低下や書店員の質の低下に対する批判,あるいはもっとこうあって欲しいというエール,は沢山あります。印刷物でも,WEBでも(多分講演でも)。内容を拝見すると,たいていの場合個別の指摘・示唆としては「もっともである」という場合がほとんどです。間違っていない。
しかし,そのような発言があちこちで目立ち始めてから(短めに見積もっても)7〜8年は経つと思われるのに,現実には悪化の一途を辿っています。では,書店関係者はほぼ全員バカなのかというと,そんなことはありません。にもかかわらず状況が悪化していくのであれば,それは正しい指摘・示唆を実行できないでいる原因が他のところにある,ということです。

たとえば,書店員自身の勉強と成長のためにも,顧客に対するサービスの向上のためにも,書棚は毎日のように丁寧に触らなければいけない,というのは正論です。そんなことは当たり前です。
重要なのは,毎日のように書棚を丁寧に触れる状態をいかにして作り出すのか,ということの方です。
「棚を触る従業員が少なくなった」のではなく「棚を触れる労働環境ではなくなった」ために,上司も「棚を触ることを重要課題として指示することが出来なくなった」のであり,その結果として何年もかけて「棚を触ることの重要性」という書店業の根本のひとつが受け継がれなくなって行った,ということです。

業界内および周辺では「棚に触らなければいけない」「棚に触るように指導すべきだ」といった発言がどちらかといえば目立ちますが,従業員不足のために分野担当者が丁寧に棚を触れなくなったという現実は,いくら「べきだ正論」を述べても変わりっこありません。
「べきだ正論」しか言わないで来たから坂を転がり落ちたのだ,ということこそを猛省すべきでしょう。「べきだ」「でも現に無理なんだよ」の言い合いしかしていない,ということです。

いかにして棚に触る時間をひねり出すかというのは,分野担当者個々人の責任範疇ではありません。
書店内の全ての業務を再検討して優先順位の判定をし直し,優先順位の変更だけでは無理な場合には業務手順そのものを変更したり支援ツールを導入したりしてさらに省力化・効率化を行う等々のことをする,管理職の責任範疇です。
それを徹底して行えばすでにして若干は改善されるはずですが,それでも追いつかない時に利益(総売上高ではない)とにらみ合わせながらどのような人員採用を行うか,というような判断も必要です。
今書店に最も必要なのは「べきだ正論」ではなく,そのようなマネジメントに関する示唆です。
また書店員自身(特に管理職)に求められるのは,たとえば棚を毎日触るということは書店にとって最優先業務のであると仮定した場合,その他の業務をどのように配置したらよいか,というような仮説を検討してみる冷静さと勇気です。
そのあとには,その仮説の重要さをいかにして部下に理解させるかというリーダーシップの問題が続きます。

一般論ですが,どうも長いことこの業界ではこの順番や関係がひどく混乱しているようです。
べきだ正論をただ勘違いしたリーダーシップで押しつけるだけとか,経理から見たマネジメントを最上位に置くだけとか……。






©akio ishizuka