月の骨
ジョナサン・キャロル
東京創元社
ジョナサン・キャロルを「某女性へ薦める本」リストに加えるかどうか、ちょっと悩んだ。
『月の骨』そのものは文句なく面白い、と個人的には思う。紹介するかどうか決めるために久しぶりに読み返してみても、やはり面白かった。
ぬくぬくと幸せな結婚生活に心から満足している主人公という設定にどうしても馴染めない人もいるようだし、この手の描写部分を話の残酷な部分を際だたせるための「手法」と割り切っている人もいるようだが、実のところジョナサン・キャロルはこういった部分もかなり本気で書いているのだと私は思う。そのことは、ゆるいつながりの連作と言える『炎の眠り』『空に浮かぶ子供』『犬博物館の外で』 なども読み続けていくと分かる。「ダークファンタジー」の名手と言われているが、ダークを書きたいがために書いているのではなく(つまり「ホラー」作品の ように怖がらせることを最終目標としているわけではなく)、人生をある視点から見るとこういう風にも見えるよね、ということを書くとたまたま普通の小説の約束事から少しはみ出してしまうだけなのだと思う。
面白い読み物はジャンルわけ自体が無意味という例の典型。
一連の作品はとても「映画的」でもある。面白い会話、印象的なシーン、それらをリズムよく切り替えていくカット割り的な手法など、作品の構成の仕方自体がとても映画的。そしてそのテクニックはかなりうまい。このことにどこかではっきりと気付くと、この描き方のリズムを壊さないために「放映時にはカットしたシーンがありそうな気がする」という気分に、ちょっとなる。重要だったはずだけれどあえて完成原稿からは省かれた部分がありそうな気がする、と少なくとも私個人は今回読み返した時、ちょっと思ってしまった。もっと踏み込めたはずなのに踏み込まなかった部分があるんじゃないか、と。
「某女性へ薦める本」リストに加えるかどうか、ちょっと悩んだというのは、その点だった。
でもまあ、それは私個人の勝手な思いこみなのかもしれないし、一連の作品を読んでいる間中幸せな読書をしている気分に浸りきっていられるのは保証出来るので、いいことにしよう。