そのあとも少なくとも3回建築物の夢を見ているが、どれも共通してエレベーターが目立つようになってきていた。
それ以前の建築物の夢では階を移動することがあっても階段を使うか、エレベーターに乗っても乗っている間のシーンは省略されていた。
エレベーターが目立つようになったと意識できる夢を、振り返るとかなりはっきりとしたものをひつつ見ていたことに、今なら気付く。
かなり大きなマンションに住んでいるらしいが、エレベーターはそのマンションの真ん中を貫いている東京タワーをそっくり小さくしたような赤い鉄塔の中に収まっていて、エレベータに乗ると周囲にはスカスカの鉄骨ばかりが見えるという夢があった。
このエレベーターに乗り込むためには、ロの字になっているマンションの外廊下からさらに内側の鉄塔に向かって、いかにも無骨な滑り止めの凸凹がついている 分厚い鉄板の踏み板を渡って行く必要がある。その踏み板部分は四方の外廊下から入ってこれるように鉄塔の周囲をぐるりとかなり広く取り巻いていて、隙間か ら見上げたり見下ろしたりすると、各階の踏み板部分が延々と続き、豆粒のように小さなエレベーター待ちの人の姿も見えたりする。
今これを書いていて思い出したが、実はこの鉄塔エレベーターはある高さ以上にまで昇ると実際にはマンションそのものの高さを突き抜けて越えてしまい、そこ から横移動出来るようになっているのだった。ある階以上で特定のボタン操作をすると、エレベーターのかごがモノレールのようなものにガタンと乗り移って全 く別の所へ移動していく。
ただし、私の夢はいつでもそんな風だけれど、この先には何も話せるような「出来事」は起こらない。何度もだらだらと、この奇妙なエレベータで昇ったり降りたり横移動したりしてみているだけだ。
エレベーターの窓はちょっと埃に汚れていて汚い。
この時の建築物の夢のエレベーターは、大きな鉄塔という大げさな姿以外には、実はあまり面白みがない。
次に見た夢のエレベーターは、いったん乗り込むと外側に通ずる扉が完全に消えてしまうというような凝った仕掛けつきだった。
こちらの舞台は厳密には建築物ではなく宇宙船なのだが、乗り込んでしまうと迷うほどの相当の大きさなので建築物の夢のバリエーションだと考えてもいいかも しれない。そもそもは(なんだかは分からないが)何かひと仕事終えて深夜バスでその場を離れようとしている大勢の内の一人なのだが、その深夜バスがかなり 大型で乗り込み口へは地表付近からエレベーターに乗って上昇することになっている。大型のトラックの運転席がかなり高かったりするが、それがもっと極端に なって地面との差が相当にあるのでステップではなくエレベーターを用意してある、というような感じに思ってもらうといい。
乗り込んでしまってからそれが深夜バスなどではなく宇宙船であることに気付くはめになるのだが、エレベータに乗り込んだ時点で、たった今乗り込んできたは ずの扉が素早く何度か折り畳まれるような動作をしたかと思うと、小さな窓だけ残して壁だけになってしまう。機密性も異様に高く、外でかなり大勢が騒いでい る姿は相変わらず見えるが、音は全く聞こえなくなる。
無意味だとは思うが、かなりきれいなLED風のライトがいつの間にかエレベーターの内側にたくさん、静かに脈打つように光っていたりもする。
そして、乗り込んだのとは逆の、背後側に新しく扉が開くと宇宙船に足を踏み入れたことに気付く、というわけだった。
ちなみにこちらの場合も私の夢の約束通り、宇宙船に乗り込んだあとは快適そうな席を見つけようとしながら延々と部屋から部屋へ移動していくだけで、疲れてちょっと憂鬱な気分になりかけているけれど、とくに何も起こらない。
更に、ごく最近見たエレベーターが関係する建築物の夢は、エレベーターそのものがさらにクローズアップされていた。
というより、エレベーターに乗っている時間の方が圧倒的に長く、建築物の中を動き回っている時間がほとんど無かった。
巨大な、おそらく60階かそれ以上あるビルのようだったが、エレベーターにはそもそも全部の階を示すボタンがない。現実のエレベーターでよく見かけるボタ ンが並んでいるパネルのあたりに、立体的にこちらに向かって突きだしている操作桿と、そこに一緒についているかなり大きめの液晶パネルがある。パネルには 十数階から二十数階あたりまでが表示されているが、いかにも「途中部分を適当に示しています」という感じが漂っているおおざっぱな表示。
そして、思い出すと苦笑されられることに、操作桿をぐいっと上へ持ち上げると液晶パネルには「もっと上? Yes | No」という表示が現れる。Yesを選ぶと階数表示そのものは示されないまま、かなりのスピードでしかし非常に滑らかに、エレベーターは最上階に近いあた りまで昇っていく。
最上階に近いあたりのどこかの階に着いてちょっと降りてみると、真新しい水色と白のストライブの布で張られた椅子と同じテーブルクロスのかかったテーブル が沢山並んだ、準備中の屋上レストランのようなところだった。いくら何でも60階近い(と夢の中では漠然と分かっている)ところで外気に向かって開いてい るレストランというのは危険ではないのかな、などと思ったりするが、すぐにまたエレベーターに戻って別の階へ移動し始める。
実は、この時のエレベーターがとても広い。
四畳半程度はじゅうぶんにある、つまり、丸一部屋分くらいの空間がある。
暗くて艶深い木材ですっかり内装されているように感ずるが、よく見ると全て金属。すみずみまで丁寧に仕上げられているのでいかにも金属を感じさせるような 角張った所はひとつもない。あらゆる部分が控えめなアール・ヌーヴォー風にかすかにうねりを描いている。ちょっとエクトール・ギマールの建築物も思わせ る。
少し暗い金色の装飾が、細かく、あちこちにほどこされている。
そんなエレベーターに乗って、ゆっくり静かに、昇ったり降りたりして、たどり着いた階を時々のぞき見ているだけ。
というわけで、この三つの夢を見比べていくと、建築物の夢の中でのエレベーターの存在がいつの間にか大きくなってきていることに気付く。
今はそれに、何の意味があるのかさっぱり分からないけれど。