まぼろしの自転車乗り

投稿者: | 2016年8月6日

道を歩いていると、時々ふと「後ろから自転車が来ているな」と思うことがある。
自転車のタイヤが道と擦れる音や、チェーンの音やきしみなど自転車特有の音がかすかに聞こえる。
けれども振り向いてみると、実にしばしば、自転車はいない。
後ろの人の足音を誤解していた、ということもたまにある。あるいは、枯れ葉が風に引きずられた音だったかもしれない。
でも、大抵の場合、ほんとうに何もなく、誰もいない。

あまりにしばしばあるので自分では勝手に、ほんとうに自転車に乗っている人が私の後ろから通り越そうとしているのだが、その人々は見えないのだ、と思っている。
幽霊のようなものだと思っているとも言えるが、禍々しい感じはしない。
次元がちがう世界がたまたま重なり合いそうになって、ほんのかすかに気配が漏れてきているような感じに近い。
音が近づいてくるとやはり一瞬緊張はするが、ぶつかりそうになる危険を感じたことは一度もない。実体がないまますうっと気配が消えていく。

まぼろしの自転車乗りの気配がいつも同じ人だという感じもしない。子どものように感ずることもあるし、がっちりした体型の若い人のように感ずることもある、なんというか、自転車をこぐ力強さが漠然と伝わってくるので違いがわかる。
だからますます、ある特定の幽霊のようなもの(たとえば地縛霊的なもの)だったり、あるいは逆に良い意味で私についている特定のもの(たとえば守護霊)だという感じもしない。
違う次元がたまたま漏れているだけの通りすがりのもの、という感じがするのは、そういうせいもある。

UFOを見たこともないし、金縛りにあったこともない。自然現象の一種という説もある人魂でも見たことがない。
横浜のランドマークタワーの中を歩いていた時に巨大な蛇がビルの地下全体を締め付けているような禍々しい感じを受けて気分が悪くなったことが一度だけあるが(それ以来ただの一度もランドマークタワーには足を踏み入れていないが)、何かを感じたのも、多分その時一度だけだ。
そういう方面に関しては、何も感じない人、に限りなく近い。

でも、まぼろしの自転車乗りはいるんだよな。
まあそういう世界でもいい。