『中世のパン』:くり返し読む本

投稿者: | 2015年2月28日

ヨーロッパの紋章』などもその傾向があるが、淡々と詳細な事実を積み重ねて紹介していくたぐいの本が好きで、この本もその類。当時の資料を一生懸命掘り出しながら延々とパンをめぐるあらゆることについて述べてある。

978-4560028667中世のパン
残念ながらもう単行本は無く、Uブックス版しか手に入らないようだけれど。
※この表紙は私が持っている単行本のもの。

もちろんパンそのものについても詳しく書かれているが、まずは畑から麦が収穫され、それを粉に挽くためにどれほど水車が存在し、水車の利権をめぐってどのようなことが行われたかを、記録簿、訴訟記録、図面などを引用しながら説明が続くことで始まるので、私などはちょっとうきうきする。
中世に食べられていたパンそのものに軽い興味を持ってこの本を開いてみた人などは、もうそのへんでうんざりするのかもしれないけれど。

パンの製造や販売には大変厳しい規則や制限があった一方、実は都市内ではその全住民がパンが得られるように自力で確保出来るところはなく、そのために一種の公に存在する抜け穴的なルールとでも言うべきか、都市外からパンを売りに来ることに対する寛大なルールが必ず存在した、というようなこともなかなかに面白い。
そのこととも密接に関係するが、当時の都市の責任者たちがパンの価格と重量をいかに苦心して統制しようとし、一方パン屋は結果としてのそのしわよせのためにどれほどに苦労していたかということが分かると、なんとも可哀想になってくる。

ちなみに、当時(おそらく今も)、よくふるった最高級の小麦で作られる軽くてふんわりとした真っ白なパンがもっともよいものとされたわけだが、私はずっしり重いライ麦まじりのパンなどの方が好きである。