ある先輩への手紙

投稿者: | 2009年9月22日
 昨年お会いしたとき、相変わらず力強い、若々しいご様子でしたので、定年退職のお知らせをいただきとても驚きました。確かに頭は随分白くなっておられましたが、まさかそんな歳になっておられるとは思いもしませんでした。
しかし思えば私も老眼にちょっと疲れを覚える五十代。先輩も私も、同じく歳をとったわけですね。

大きな体を大股に運んで現れては何事も断言するように話し、しかし営業のお手本のように腰は低い。その独特のノリは今も忘れません。
断言口調の背後に何かちゃんとした根拠があるのかどうかなどと、僭越にも思う時もありましたが、今思えば「それはよい」と断言してもらったおかげで、頭でっかちなくせに経験も勉強も足りない、内心不安をかかえた若い店長にすぎなかった私は、随分励まされたのでしょう。
励まされました、ではなく、のでしょう、と言うのは少しおかしい。
ええ、そうですね。
正直なところ毎日のようにお会いしていた頃はそんなことは思っていませんでした。
しかし昨年久しぶりにお会いして私が今どんなことに関わっているかお話しした時、まさに断言口調で「いいね。これからはそうでなくちゃいけない」と言っ て下さいました。その時、何か温かいものが胸の奥から沸き上がり、一瞬絶句してしまいました。私の中にどれだけその声、身振り、口調が大切な思い出として しまい込まれていたか、その時初めて分かりました。
あの短時間で、私が関わっていることの全てをじゅうぶんに理解していただけたとは思えません。それでも、そんなことには関係なく、断言していただいたというそのこと自体が、貴重なのだと思いました。

お仕事で悩んでおられた時期や、不満を感じておられた時期があったことも、失礼ながら、感じ取れることがありました。そんな時、いつも通りの断言口調はほんの少しうつろで、ほんの少し必要以上に大声でした。
でも、結局は一度もそのスタイルを変えることはありませんでした。変えないでやり続けていくことは本当はとても大変だったろうと思いますが、私のようにその変わらない姿の思い出こそが今や貴重なものとなっている人も、きっと沢山いることでしょう。
そのことにこそ、お礼を申し上げたいと思います。
ありがとうございました。

どうぞお体に気をつけて、これからの人生を楽しんでください。