ポイントを絞り優先順位の高いものから優先で
書店員は毎日大変忙しいです。より正確に言えば、仕事が非常に細切れになりがちで、いつ暇で、いつ忙しくなるか、本人にも予測が付きません。たとえ書店員 がじっくり聴くつもりになっていたとしても、書店内では急にお客様からの用事が入ったりすることも多く、営業途中のどこで話が中断してしまうか分かりませ ん。
ですからポイントを絞って営業してください。
本の紹介を始める時は、その店に最も向くと思われ、ぜひ平積みを確保したいという商品から、あるいは自社ラインナップ中最も力を入れている商品から、最優先で話し始めてください。
最優先のものから話し始めてもらえば、たとえやむを得ない事情で時間切れになったとしても、お互い最も重要な部分だけは決断を下してしまえます。
その後もさらに時間的な余裕があるようであれば、より細かなお勧め品の提案へと移ります。
さらにいっそう時間がとれるようなら、最後は業界内の情報や、取り扱っている商品ジャンルに関係してきそうな世の中の動きなどの情報交換へと進むと良いでしょう。
棚在庫のチェックの活用方法
棚在庫のチェックの結果をいきなり示し「どうしましょう」というような漠然としたところから営業を始める方もおられますが、これはあまり良策ではありません。
棚在庫のチェックは大切な基礎調査ですから、それ自体は良いことですし、必要なことでもあります。しかし、少なくともチェックの結果を期した一覧表をただ相手に「見ていただく」だけというのは良くありません。
単に欠本を補充して下さいという許可を得るためだけであれば、相手に精査してもらう必要は、実際にはほとんど無いはずです。それだけのために相手の限られた時間を使うのはもったいないです。
あえて一覧表を見てもらうのであれば、それそのものが強い効果を持つ販促ツールになっているべきでしょう。
たとえば、よく売れているようであれば「こんなに売れていますので関連書でミニフェアをしましょう」といような提案を、あまり売れていないようであれば「xxxシリーズに入れ替えてみませんか?」というような提案などを添えることで、欠本チェックがたんなる 「資料」から「販促ツール」に変わります。
棚在庫のチェック結果を書店員に示すということが、ただ漠然とし た習慣的な行為になっていませんか?
具体数の提案
順次、具体数の決定を
書店員がいつまで話を聞いていられるか分からないという前提に立てば、仕入れ数も、出来るだけ個別の商品を紹介したその場で決断するよう促してもらった方が助かります。
重要な商品から紹介を受け始め、その順に仕入れ数を決定していっていれば、万が一急に中断されることになったとしてもお互いに重大な損害を被ることはないわけです。
また上記とは別の問題ですが、多くの商品の説明を聞いた後でまとめて仕入れ数を決めようとすると、すでに一番最初の商品の印象が薄れて混乱している場合もあります。
私個人は絶対に自信を持って数を即答できるほど個別の商品に強い印象と記憶を保っていられるのは、なんと3点まででした。倍の6点になるとそろそろ怪しいものが出始め、10点を超えると、正直に言うと、最初の方に紹介をうけたものの中には本当に忘れてしまって いるものがありました。
私個人の場合は「目先のことに非常に強くのめり込む」というちょっと幼稚な精神的欠陥があるので、大人の社会で生きて行くにはとても苦労するのですが(苦笑)、ここまで極端ではなくても、それほど大量の記憶と印象を正確に長期間保っておけるはずはない、と いうことは、人間一般に当てはまるはずです。
せいぜい数点以内の時点で、一旦仕入れ数を決定させるようにそれとなく促してくれるほうが、どの書店人も新鮮な気持ちを保てる可能性が高いです。
具体的な数を口に出すことは判断の基準点を提供すること
書店員に仕入れ数を即断させるコツを、紹介しておきます。
どの店にも、その店の平均的な発注数というものがあります。「これはいける!」というものならxx冊くらい、「まあ様子を見てみよう」というものならxx冊くらい、とある程度は決まっています。この冊数をまずきちんと覚えておいてください。
何度かその店で営業すれば、これは自ずと分かります。最低でも「まあxx冊で様子を見てみましょう」という発言の時に相手が何冊と言うことが最も多いか、だけでもきっちり記憶しておきます。
次に相手(書店員)が乗り気になっている様子であれば、その店の「これはいける!」という場合の冊数よりわざと少しだけ少な目の数を提案します。
「う~ん。これはもしかするといけるかもしれないね」
「ありがとうございます」
「えーと、そうだなあ、どのくらい・・・」
「7冊くらい・・・ですか」
「いや、もっといけるって。よし、15冊にしよう」
逆にあまり乗り気ではない場合にはわざと少し多めの数を提案します。すると、書店員は自らほぼ適正な数に削ります。
これはたんに仕入れ数を営業側が操作するためのテクニックだというふうに、安易に捉えないでください。
このテクニックの最も重要なポイントは何らかの具体的な数を口に出してみせることで相手の中に具体的な決断の手がかりを与えるという部分です。相手に「いや、その数よりは多い/少ない」という判断をするための何らかの基準点を見つけさせる手助けをする、ということです。
デートをしていて「おなか空いたね、何食べようか?」「何にしようか?」という会話を繰り返していてもいつまでも決まりません。「中華にする?」「いや私中華はちょっと苦手。お蕎麦とかがいいな」というふうに具体的な物を挙げれば、たとえ最初の提案が否定 されたとしても、決断に向かって話がちゃんと動きます。
数を口に出すのは、このことと全く同じ意味合いです。
その時に数の調整をさせることも含める、というのは、より高度なテクニックです。
その店の平均的な仕入れ数をきちんと把握していなかったり、その書店員個人の癖(いつも反射的に少な目に仕入れようとする、とか、必要以上に寛容な仕入れ をし過ぎて結局返品が多い、とか)を把握していないのに仕入れ数を操作するためにこのテクニックを使おうとすると、バカにされたり、期待していた数とは全 く違う仕入れ数にされてしまったりします。
これまでこのようなことを意識的にしたことがなかった方は、当面は「相手に判断をするための何らかの基準点を見つけさせる手助けをする」という意味合いだけに使うにとどめておくようお勧めします。
くりかえし行って、その効果や問題点を自分でじゅうぶんに把握することを優先しましょう。
補足:具体数は「責任」でもある
この文書の初版(サイトへの最初の公開)、および第二版(メールマガジンで配布された改訂版)の公開後「書店員に数を決めさせるというテクニックは、実践の場ではあまり有効ではない」あるいは「その意味合いがいまいち納得しかねる」という声を、幾つかいただきました。
確かここに架空の会話として書いているようなふうにはうまくいかない、というケースも非常に多いだろうと思います。そのことは認めた上で、書店員に数の決断を促すための技術、というものが暗に持っているもうひとつの意味合いにも注目して欲しいと思います。
何らかの具体的な数を口に出してみせることで、判断をするための何らかの基準点を相手に見つけさせる手伝いをする。
相手がそれに応じて、あなたが口に出した数を自ら修正して数を決める。
厳密に言えばこの時、その数に対する責任は最後に修正して数を決めた人、つまり書店員にあります。
あなたが提案した数を、その場の勢いだけで、あるいはイヤイヤ押し切られて、あるいはまた面倒なので全く検討するという手順を踏まないで、受け入れたわけではありません。従って、書店員はその仕入れ数に自分で責任を持つ必要があります。
言われたままにxx冊仕入れたけれど全く売れなかったよ、と責任を100%営業さんの側に押しつけることは出来ません。
残念なことですが、自分の店舗で売り上げを立てるために(どの平面にも家賃がかかっているという意味で)有料のスペースをある商品に割り当てるという責任 の重い仕事をしているはずなのに、仕入れ数に自分で責任を負うという意識が薄い書店員がかなりたくさんいることは、事実です。
その是非をここで追求するのはやめておきますが、少なくとも版元の営業としては、商品を仕入れ、そのケアをしていくということに関して、書店員さんの側にも最低でも50%の責任を持ってもらうようにすることは、大切なことです。
自分に責任があるという意識を持っていれば、商品を大切にします。xx冊売れるはずだと思って仕入れたのならxx冊売ろうと展示方法や場所などに工夫をします。
つまり、書店員が数を決める手助けをすることは、単に受注がしやすくなる可能性が大きくなるだけではなく、その仕入れ数に関して責任を分担してもらうことにもなるのです。
※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
「この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。