セールストークのネタがつきて、ただひたすら「お願いします」を連発する人がいますが、これはみっともないだけでなく、効果もありません。
お願いするということは、意地悪な見方をすれば、商品としてはもしかしたら価値はないかもしれないけれど、とにかく置いてくれと頼み込むということです。土下座をすればなんでも仕入れてくれるなら、誰だって土下座して廻るでしょう。
すでに仕入れを決断してくれた商品に対して、その商品の面倒をよろしくお願いします、というのとは、全く意味が違います。
お願いをするのはやめましょう。
それよりもその商品の魅力を語りましょう。
さまざまな視点の提供
商品に魅力がないと思われれば、どんなに薦めても仕入れてはくれません。
商品に魅力があると納得してくれれば、仕入れてくれます。
その時起こっていることは、ある意味非常に単純なのです。
その商品のどのような点が魅力的なのかを語ることに全力を注ぎましょう。
商品そのものが単体で飛び抜けた力を持っている場合もあります。非常に人気のある著者であるとか、きわめて興味深いテーマであるとかのケースです。この場合は、それがその商品の魅力そのものです。できるだけストレートにそれを伝える努力をすればよいのです。
商品そのものが飛び抜けた力を持っているというほどではない場合には、提案が全てを左右します。
このような他商品と組み合わせることで総体としての販売力が上がる。爆発的な売れ行きは期待できない代わりに一定数までは確実に販売が見込める確実性がある。現在はまだだがまもなくブームになりそうなテーマ(著者)であるから、先取りして販売することで来 店客にやがて先見の明のある店舗としての評判を得られる。などなど、提案はいくつものケースがあり得ます。
つまり、これらの場合には「どのような視点で商品をとらえればそれが魅力的であるか」ということを提示するわけです。
反論や否定をされたら別の視点へ導く
反論されたり、否定されたりしたら、まず相手の反論や否定の根拠をよく考えましょう。焦りを感じて、相手の反論や否定を「そんなことはありません」とさらに否定してはいけません。
相手の反論を一旦受け入れた上で、「おっしゃる通りかもしれませんが、こういう風にも見ることが出来ます。そう見れば魅力的ではありませんか?」と提案を繰り返しましょう。
同じことを無理に押しつけるのではなく、受け入れた上で別の視点に導く努力をする、ということです。
同僚とお互いにわざと意地悪な質問や断り文句を投げ合ってみて、事前にシミュレーションしてみるのも面白いでしょう。
また、お互いの担当区域内の、とくに厳しいところを突いてくるベテラン書店員さんがいる店を一番最初に訪れて、あえて練習をさせてもらうつもりで営業してみる。その結果をみんなで持ち寄って研究するというのも良いでしょう。
書店に勤めていた頃の私は「話は聞いてくれるが、なかなか注文をくれない人」として一部では有名だったらしいですが(苦笑)、そういう人などは上記のテスト営業には適任でしょう。
ただし、最後にはいさぎよく引き下がるという決断も大切です。
万華鏡のようにあらゆるケースにマッチする商品など存在するはずはありません。あまりにやりすぎると結局はその商品そのものがきわめて曖昧でポリシーのないものに見えてきてしまいます。
ある程度試みて、それでも相手が頑強に抵抗するようなら、機会を改めるべきです。
決断するのは相手
決断するのは結局は相手だ、ということを忘れないでください。
相手が自分で決断を下さない限りは、どんなに魅力的な説明・条件などをずらりと並べても、仕入れには至りません。
相手が自らその商品に何らかの魅力を感じて、自ら仕入れを決断するのを手助けするのが営業であって、押しつけて廻るのが営業ではありません。
人は自らを「こうすることが良いことであろう」と説得します。何らかの決断をする時は、無意識であっても、必ずこの自らを説得する段階を踏んでいます。
女性は時にジャケット一枚に10万円以上も払う決断をすることがありますが、この時決断の根拠となっているのはそのジャケットの材質やデザインではあり得ません(少なくとも、機能や品質に対しての対価、だけではあり得ません)。
そのジャケットを着た自分のイメージやそのジャケットを購入するという行動をすることによって得られるアイデンテティなどを含めて「それは自分にとって良い」と決断するのです。
また、かつて私自身100万円単位の資産用高品質ダイヤモンドというものを、ほんの短期間販売していたことがありますが、その時同行してくれた上司が、見込み客に対して、あなたの人生においてここで決断をすることはあなたが自分の人生を変えることだとまで言 い出すのを見て唖然としたこともあります。
唖然とはしましたが、確かに100万円単位の買い物をごく普通の人が決断するためには相当に大きな「自分にとって良い」という判断がなければならないわけで、その上司の発言自体は決して嘘や騙しでは無かった、とも言えます(それでも決断しなかった客からは、 無理に契約を取ろうとはしませんでしたからね)。
俗に決断力がないと言われる人は、この自己説得そのものから逃避しようとする傾向が強いです。自分で自分を説得してしまえば決断に対して自分で責任を負わなければなりません。おそらく、それが怖いのです。
最初から自己説得を放棄してしまう人もいますし、逆にわざと自分の中の議論を複雑にしてなかなか結論が出ないようにしてしまい「よく考えたが分からない」を逃げ口上にする人もいます。
営業の仕事とは、この自己説得の手助け、を上手にすることに他なりません。
だからこそ「お願い」することは間違いなのです。
「お願い」されることとは決断を押しつけられることです。決断を押しつけられれば、出来ることなら自分に対して「決断しないように」説得したくなって当たり前です。
アドバイス:一撃必殺
商品を魅力的に感じさせるテクニックをひとつ。
どうしてもこれだけは注文をとりたいぞ、と思うものがあるなら、その商品のある一点だけをズバリと持ち出してください。
たとえば、どんな内容で、どんな著者で・・・というようなことを説明する前に、いきなり「この本は・・・ちょっと表紙がすごいんですよ」と、やる。
あるいは「この方に書いていただくために2年間粘ったんですが、とうとう書いていただけました」と言ってみる。
その本が他とは違う部分がひとつでもないか、よく捜してください。
一撃必殺でそれをトークの冒頭で、いきなり持ち出してみましょう。
少なくとも、相手の注意を引きつける確率はグンと上がるはずです。
※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
「この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。