常備のあれこれ

投稿者: | 2011年4月8日

常備は可哀想

常備は欲しいけれど、どのセットも希望するよりも冊数が圧倒的に多い、という場合は多いです。
少なくとも、私が実際に経験した全ての店舗ではそうでした。

版元さんの側には一定のランクの品目まで常設展示してもらう。その展示にそもそもそぐわない店舗には無理においてもらわなくてもけっこうである。というような考えも当然あるでしょう。
これが高飛車であるとは、私個人は、思いません。なぜなら常備は版元さんの社外在庫なのですからね。
そういった意味合いでは、展示義務を守れない書店は無理に常備をとるなというのは正論です。
公然と語られることは少なくても、展示しきれない常備の一部を早期返品してしまうことはかなり日常的に行われていますし、中にはそれ以上のことをはっきりと意識しながらやっている場合もあります。

書店さんを糾弾しようなどというつもりはありません。なぜなら、版元の営業さんの中にも明るく堂々と「入りきらなかったら返しちゃっていいですから、とりあえず常備入れてください」とおっしゃる方もいるからです。
常備はそのような扱いを受け続けているのだ、という事実があるというだけです。
常備は可哀想ですね。

回転率の悪さ

常備は補充をしない限り書店に対して請求が立たないわけですから、その点から見ればたとえ常備の中に入れ替えるまで一度も売れないものがあっても文句を言うには当たりません。
そもそも非常に有利な条件で商品を貸すのだから出来るだけバラエティに富んだ品目を出来るだけ多くの潜在読者の目に触れるように見本として展示してね、と いう意味合いが常備には含まれています。その筋で行けば売れる/売れないにかかわらず「出会いの可能性」を優先するべきです。

しかしながら、限られたスペースの中で出来るだけ売り上げを立てなければならないという書店側の事情から見ると、これはいささか困ってしまいます。家賃などの固定経費のある部分をその売れない商品がずっと占有し続けている、ということになるわけです。
そして常備の品目の中には必ずこのようなものがあります。半年経っても一度も売れない…とうとう一年間一度も売れない…最悪のものになるとスリップも常備 カードも見事に挟み込まれた時の状態のまま、つまり一度も誰もその本を開いてみたことさえない、というものも出てきます。
年々経営が苦しくなる書店側としては、さすがにそこまでの商品を律儀に置き続けることは難しいということになってきます。そこで、多くの場合長くても半年くらいで「見切り」をつけて常備であるにもかかわらず抜き取り返品をしてしまうということも起こってきます。

常備同士のぶつかり合い

ある版元さんの常備が上記のような状態であるだけでなく、複数の版元さんの常備同士のぶつかり合いもあります。
そもそも1社だけでも展示しきれないことがある上に、書店は普通同ジャンルの常備を複数版元さんからもらっていることが多いので、ますます展示しきれなかったりします。
次善の策と称して、ある版元さんの常備が届いたらそれより前から入っている同ジャンルの別の版元さんの常備を削る、最悪の場合全部返す、ということまで行われているわけですから、これは自社の常備だけの問題ではありません。

書店はなぜ常備を入れるのか

そこまで言うなら(あるいは、そこまでのことをしてしまっているのなら)そもそもなぜ書店は常備を入れるのか?と、そろそろ腹が立ってきた方もあるかもしれません。

新刊配本が必要なので

常備と新刊配本が密接に連動している版元さんは、今でも少なくありません。
リスクの大きい新刊ばかりではなく、地味ではあっても確実に売り上げになる既刊を大切に扱ってね、という版元さんの意向は理解します。そもそも普段から基 本的な品揃えをして顧客を開拓・維持していないところへ新刊を出すのはリスクが高すぎるという判断にも、同意は出来ます。
しかし、常備と新刊配本の関係を厳しく考えるあまり、わけの分からない堂々巡りに陥ってしまうこともあります。
「新刊配本をいただけないでしょうか」
「常備が入っていないと難しいですね」
「では常備をいただきたいのですが」
「売り上げ実績がないと差し上げられません」
「… …。」
ここまでひどくはなくても、新刊配本が欲しいという理由だけで実際には必要ない常備を入れている書店は少なくありません。
もう少しゆるやかに対応していただけないものかな、とは思います。

特定ジャンルを充実させたいので

これはある意味では書店側の甘えでもありますが、特定のジャンルを充実させたり、新しいジャンルの顧客を開拓したりしたいが、あまり大きなリスクは負いたくない、という場合があります。このような場合、可能ならば常備をもらえれば書店はとても助かります。
また、特定ジャンルや特定版元さんの売り上げ良好書を一気に取りそろえることが出来、また、一点一点自分で仕入れをした場合よりも補充などの管理が楽であ るという面もあります。さらに言えば、特定のジャンルについて詳しい知識を持った担当者が社内にいない場合でも品揃えや補充の判断に関して大失敗をするこ とが少ないであろう、という期待もあります。

経営の負担を減らしたいので

これは繰り返して説明するまでもない理由です。
ただし、現場の担当者のレベルではこのことを真剣に考慮している場合は比較的少ない、というのも、現実です。

選択常備が良いか?

上記のような問題を未然に防ぐためには、選択常備が一番良いかもしれません。
その店で必要とする品目を、その店で必要とする冊数だけ常備として契約すれば、入りきらないから返す、というような問題は発生しません。そもそも「必要なものを、必要なところへ、必要な量だけ送る」というのは、流通が絡む全てのビジネスの基本中の基本です。
しかし選択常備を用意するのは版元さんにとって大変負担が大きいです。
また、書店の担当者が自分の店にとって必要な品目はどのようなものか的確に把握できていなければ、そもそも意味がありません。
版元さんにやって下さる意志があり、書店の担当者がきちんと自分の店を把握しているのであれば、これがベストに近い選択だと思いますが、いささか版元さん側の負担がアンバランスに大きすぎるかな、という気もします。

長期委託の活用

選択常備に替わる方法として、思い切って常備をやめて数ヶ月単位の長期委託に変更するというやりかたもあるでしょう。
数ヶ月単位の長期委託は、常備のように1年以上の契約ではないので、世の中の動きに比較的素早く追従できるというメリットもあります。基本的に常備品目の 選定は前年度の実績に基づいて行われるので、常備契約が終わる頃には選定された時の流行や世の中の興味の対象から大きくずれてしまっている可能性もありま す。

これは必ずしもその時その時の流行にぴったりフィットするものだけを品揃えすべきだ、という意味ではありません。発行から長い年月が過ぎても確実に売れ続けるものも間違いなく存在しますし、そもそも時々の流行を追うだけでは新たな顧客を開拓することが出来ません。
「今流行っている」ということは「まもなく廃れていく」ということとほとんど同義である場合も非常に多いわけですから、流行にぴったりフィットするものだけを品揃えするのはとても危険なことでもあります。

しかし、ある程度短い期間で合法的に見直しのチャンスがあった方が、より良い、と思います。
長期委託品は常備とは違い書店の在庫になりますが、あえてそのリスクを選んで要望してくる書店さんには、応えてあげて欲しいと思います。

※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。