人材が確保できない

投稿者: | 2011年4月24日

書店人はしばしば商売というものの基本を理解できない・あるいは誤解してしまうほど頭が悪い、というお話を前回はしました。この問題は、私がわざわざ言う までもなく、根本の部分ではもちろん委託配本制や再販価格維持制度などにも深く関係してきます。しかし、この問題に触れるのはもう少し後にしましょう。
いましばらく、起こっている事象を見ていきましょう。

書店の業界では、あきらかに深刻な人材不足です。人材不足を通り越して、そもそもの頭数さえ不足しているのですが。
働きぶりに適度に報いるだけの報酬を払えないという現実が、まずあります。
これは書店そのものの収益モデルが破綻しているという面もありますし、取次との間での決済の仕組みに巧妙な罠があるという面もあります。この点に関しては(特に版元にお勤めの方は)よくお分かりになっていると思います。
仕事に貴賤はありませんが、ある程度以上の知的な努力を日々要求される仕事に就く人間には必要最低限よりも僅かでも多くの賃金を支払っておくべきです。なぜなら、そうしておかないと従業員は精神的な余裕を失ってしまい、結局つぶれてしまうからです。
どんな仕事でもそうだ、とも言えるので、誤解をさけるためにある程度以上の知的な努力を日々要求される仕事に就く人間にも必要最低限よりも僅かでも多くの賃金を支払っておくべきと言い直しておきましょう。

この業界では個々人の能力や努力がどの程度売上げを左右しているかが単純なデータとしては把握しにくいという問題があるために、経営者は簡単に削減できる 経費として人件費に目をつけがちです。一時期コンビニエンスストアで出来ていることは書店でも出来るという実にばかげた、単純すぎる考え方が流行しかけた ことさえあります。実際この時期、経営者の一部は正社員を可能な限り減らしてほとんど全てをアルバイトだけで営業していこうと真剣に考えたものでした。
この余波は単に正社員の負担をより一層増やしたというだけでなく、将来自分も書店に勤めてみたいと漠然と希望して書店のアルバイトをする人々を幻滅させるという、静かではあっても深刻なダメージをもたらしました。
社員が削減された職場で書店のアルバイトが経験することは、次の二つです。
薄給のアルバイトであるにもかかわらず多大な負担と責任を負わされて分野担当者をさせられる。
正社員のあまりの負担の大きさをまのあたりにして恐れをなす。
こうして非常に多くのアルバイトがやがて「本は好きだけれど将来本屋の社員にはなりたくない」という発言をするようになります。これは決して誇張ではありません。紛れもない、事実です。優れた才能がほんの数年間書店を通過し、どこかへ去って行ってしまうようになっているのです。
現在いる社員を苦しめているばかりか、将来の人材候補をも失い続けているのです。そんな業界の未来が明るいわけはないと、苦笑を通り越して失笑です。