『マスード 伝説のアフガン司令官の素顔』
マルセラ・グラッド:著, 長倉 洋海:写真
出版社: アニカ
を、読んだ。
対ソ連・対タリバン戦で行動を共にした盟友・部下・ジャーナリスト・家族など50人を超える人々が、アフマド・シャー・マスード司令官の思い出を熱く語ったインタ ビュー集。
人間の尊厳と自由を守るために戦った伝説のアフガン指導者礼賛。
であるので、客観的な伝記や歴史の本ではない。
(まあ余計なことだけれど言っておくと、「だから価値が低い」ということではない。そもそも純粋に客観的な伝記や純粋に客観的な歴史というものは無いので)。
マスードのことを語った本というより、人々がマスードという稀有な存在に出会って何を思い、その後の人生にどんな影響を受けたのかという、マスード体験について語っているわけだ。
読み始めた時は、正直に言ってしまうと、このままこの大部の本を読み進めたら飽きるだろうな、と思った。
ある程度バラエティがあるとはいえ、結局はたった一人の人がいかに素晴らしいか、自分がその人のことをどれほど好きだったかを、人々が延々と語っているだけなのだ。
でも、飽きなかった。
最後まで読み切って、ああ、そうかと思った。
読み始めた時にはうかつにも気づいていなかったけれど、マスードはすでに死んでいる。人々の前から暗殺によってもぎとられてしまった。そのあとで、みんながマスードについて語っている。
でもそこには奇妙なくらい、悲嘆や恨みがない。
もちろん彼がいなくなったことをとても悲しんではいるが、それでもマスードについて語る時、みな幸せそうだ。
皆が語っていることはマスード体験であり、マスード体験を語ることがそのまま祈りのようだ、と思った。そうやってこの人々は生きてきたんだな、と思った。
一心に祈ると、すくなくともマスードに微笑んでもらえると信じられるようなそういう祈り。
その微笑みに応えて人生の選択をしていく時、誇らしくさえ思えるだろう。
とても、幸せな祈りだ。
そう思った。