『ガリア戦記』:くり返し読む本

投稿者: | 2015年3月29日

9784061591271_lカエサルの『ガリア戦記』は名作だとは思う。
しかし読み返すたびに、カエサルはあれだけ戦争をしまくり、元老院との政治的な駆け引きも行いながら、本当にこんなに整った作品を書けたのか? と思う。
研究では各章が実際に書かれたと推定される時期によって文体に変化が見られるということなので、誰かゴーストライターが一気に仕上げたものではなく少なくとも一人の人間が時間をかけて書いたものなのだろう。そして、たぶんそれは本当にカエサルなんだろう。

初めて読んだ時には冷静でおのれを飾らない戦争記録ぶりにびっくりし、一気に引きこまれた。自身が関わり、ましてや指揮までした戦争に自己正当化や自画自賛を持ち込まないのは極めて難しい(実際『内乱期』ではカエサルも相当にあやしい論理のひねくり回しをしてあからさまにならないように、けれども、強力に、あちこちで自己正当化している)。
またこれもひろく指摘されているように、戦記ではあるが同時にガリアの関する民俗学ないしは文化人類学的なレポートという側面もあり、たんにガリアを下に見るような低レベルの「感想」では到底ない。(まあそもそもいきなり冒頭付近からローマは贅沢品に侵されて柔弱になっているがガリアはそうではないので強敵だ、と言い切っているわけだが)。

そしてまた最初の感想に戻るわけだが、単に戦記だけでなくそんなガリアの文化人類学的ドキュメンタリーまで含めて、本当にカエサルが自分で書いたのか、と思うと、ちょっと圧倒される。
やっぱりカエサルはある種の天才だったんだろうな、と思わざるをえない。
彼のおかげで二千年以上も経った今日、当時のガリアのことを活き活きとした手触りと共に知ることが出来るのだけれど、同時に彼もガリア世界を、壊し、ローマ的西欧に吸収消滅させていった動きの中に一定の役割を担ったことを思うと、ちょっと皮肉だ。