フランス人と呼ばれた頃

投稿者: | 2016年3月19日

以下の話はほとんどが事実です。
ごく一部、創作です。

ショーンK氏の経歴詐称問題で世間は盛り上がっていたので、絶対あるなとおもっていたのだが、やっぱりあった→【経歴詐称詐称メーカー
ウクライナ在住っていう最後のところだけちょっと好きかな。他は、まあ、いまひとつ。

石塚昭生です。沖縄生まれ。灘高卒業後メリルリンチ日本証券→任天堂、退職後はミュージシャンを目指したのち、現在は映画監督。ウクライナ在住。 【経歴詐称メーカー】

北海道のとある田舎の高校生だった頃、登校していくと校舎の上階の窓から「フランス人!」という声がかかることがたまにあった。
今はもう60歳も近づきすっかり白髪になっているのでよく分からないだろうけれど、もともと髪が少し茶色がかっている。これは母方からの遺伝で、母は私より更に明るく、染めているかブリーチしているんだろうと思われても仕方がないくらいの髪色だ。
だからといって「フランス人!」と声をかけるのは、要するになんなのだろう、いじめとかそういうつもりなんだろうか、と一緒に歩いていたクラスメイトと、むしろ首をひねったものだった。つまり誰かに「ブス!」という声を投げるみたいに「フランス人!」と言っているのか…いやそれもなんだか変だよなぁ、と。
今にして思えばそれは、お前は異質だ、お前は『外人』のように我々の仲間ではないという、いじめというより一種の「差別」に近い衝動だったのかな、と思う。肌が白くて髪の色が明るく、その上なんだか独特のちょっと高慢そうな雰囲気をまとった当時の私に対して、彼らはなんとも言えない違和感を感じていて、からかってみたかったんだろうと思う。
(こうやって当時の自分をできるだけ客観的に振り返ってみると、そりゃ違和感あるわな、と思わないでもない。上級生どころか教師に対してさえ一切儀礼的な尊敬なら払わないという雰囲気がありありとわかる面倒くさいやつだったしなぁ…)。

毎朝出社のために駅に向かう道は、中高生が登校してきて私とすれ違う道でもある。
以前、いつも日傘をさして登校してくる、細くて、思春期ならではの透明感に満ちた、綺麗な子がいた。ショートカットで、とても色白で、そのまま雑誌の読者モデルくらいならじゅうぶんつとまりそうな子だった。ある時その子の少し後ろを歩いている数人の男の子たちが、彼女が日傘をさして歩いていく姿を誇張してものまねして声を出さずに笑いあっているのを見かけた。
まあ、そんなもんだよな、と思った。
彼女は可愛いとか好かれるとかではなく、ちょっと異質のレベルに入ってしまっていたから、男の子たちがなんだか他にどうしたらいいのか分からなくて、そうやって異質をからかうことで自分たちの気持ちを落ち着けていたんだろう。
でも、そこから差別やいじめへ足を踏み外すのは、ほんの半歩なんだけどね。
彼女も男の子たちも幸せな大人になっていてくれるといいが。

まあ、フランス系イヌイットと日本人の血が混じっていて、香港の街角を旅行中に一人で歩いていたら地元民と思われて道を聞かれたことがある私としては「フランス人!」とからかわれるのは、あらためて思い出すと複雑な気分だ。いや、君たちの視野に入っている世界の範囲では異質なのかもしれないが、そもそも世界はもっと広くて、そこでは思いつく限りのものがけっこう「普通」なんだからどう返事をしてあげればいいんだろうな、と。
まあもちろん、高校当時は私自身が狭い世界に生きていて、そんなことも考えなかったのだけれど。