単品ではなく企画

投稿者: | 2011年4月22日

書店さんに喧嘩を売れ

といっても、本当に喧嘩をしろということではありません。
いや、したければしてもいいですが(笑)
書店をまわって営業をすることは「仕入れてもらう」「展示してもらう」ということことを目指していて、それがかなえばお礼を言うというということの繰り返しが中心になっています。
そういう「まとめ」方をしてしまうと、「オイオイ、それはずいぶんなんだか失礼ではないか。我々はねぇ…」とお怒りになる方もあるでしょうが(ごめんなさい)、事実としてそのような行動が多いことは本当です。
企画を持ち込んでくれませんかね。
こんな本の組み合わせで、こんな風な展示の仕方で、××なお客さんを狙ってみるというのはどうですか?と、単品の本ではなく、企画を提案してみてくれませんか。
なぜそれが書店さんに喧嘩を売ることになるのかといえば、普段書店の担当者がしていることがまさにそれだからです。
書店の担当者の「聖域」にあえて踏み込むからです。

企画的に考えなきゃ潰れちゃう

今更言うまでもないことですが、書店の担当者は(まともな頭とやる気の持ち主なら)商品を単品で見たりはしていません。
どの本をどのくらい仕入れるのか/仕入れないのかということも、どこに展示するのか、何と隣り合わせるのか等々ということも、すべて企画的に考えます。
たとえば、どうしたらお客さんが見つけやすいのかという一見単純な問題にしても、あえて汚い言い方をすれば、親切でやっているわけじゃありません。買ってもらうためにやっているわけです。
レポート作成の参考に立ち読みする時すぐに見つけられるようにとか、デートの約束までの待ち時間を楽しく暇つぶししてもらうようにとか、そういう理由で本を並べているわけではありません。
それが将来の投資としてじゅうぶんに意味があれば「当面の目標」をそのようにもしますが、決して「ひたすらお客様のために」などというもっともらしい理由からではありません。
大ベストセラーがものすごく見つけやすければその大ベストセラーは売れるでしょうが、みんなそれだけを買ってさっさと帰ってしまうかもしれません。大ベストセラーの一品だけ売って経営が成り立つほど書店は甘くありません。
いかにして店内を長く回遊してもらい、しかもそれを「面倒だ・不快だ」と感じさせず、結果として複数冊の買い物をしてもらうかということこそが、書店の基礎なのです。

文庫棚の五十音

今は昔。
かつてほとんどの出版社の文庫は五十音順には並んでいませんでした。出版社が独自につけた分類やらナンバリングやらに従って、はっきり言えば、意味不明の並び方をしていました。
やがて五十音でのナンバリングがされるようになった頃から、書店の棚の大部分も著者名の五十音順で展示されるようになっていきました。
書店を訪れる人にとっては以前よりは探しやすくなり、便利になったでしょう。
しかしこの時書店員が一番「よしよし」「しめしめ」と思ったことは、実はそのことではありませんでした。

  • 新旧の作家も、ジャンルの違いも、五十音という一見規則的な並び順で、実はランダムにシャッフルされてしまうので、出会いのチャンスを増やせる。
  • 出版社の異なる同じ著者を一ヶ所に全部まとめられるので、出版点数の多い少ないという(文庫に関する)出版社の勢力図に左右されずに販売の主導権を書店側が握れる。

ことほどさように、書店員というのは「企画的に」物事を考えるものです。ある単品だけで完結したことを考えているようではつとまりません。

提案を歓迎

さて。
逆から言えば、書店員が一番頭を悩ませ、しばしば企画に詰まる(ネタ切れに苦しむ)のもこの部分です。
一店舗内の視点にとらわれているとどうしても発想に幅が出ません。
一個人の考え方の癖や能力の限界というものもあります。
特定分野の担当を長年やっていると本を展示している最中にふと手を止めて:
「ああ、これは3年前に自分が大自慢しながらやったことを自分自身が真似をしているだけじゃないか…」 …と哀しい気持ちでじっと本の並びを眺めていることもあります。
いや本当に。
ですから、違った立場、違った視点からの企画的な提案であれば、基本的にはいつでも歓迎です。

ただしもちろん「提案を歓迎」することと、それを受け入れることは別です。
既刊を積極的に勧める
の中の[既刊の組み合わせをどう選ぶのか]の項目でも述べているように、安易すぎたりおおざっぱすぎたりするものはいただけません。 
 

書店さんと共同プロデュース

「それってつまりセット組みして出している『フェア』ではダメなんですか?同じことじゃないんですか」
というもっともな疑問があるでしょう。
もちろん、フェアを提案の「素材」として利用してかまいません。でも「同じこと」ではありません。

個別の書店の店頭に最もフィットするものを提案しろ、とまでは言いません。理想論としてはその方がよいでしょう。しかし、現実としてそこまでの個別対応をして、それに対して一体どのくらいの利益が見込めるか、という効率の問題もあります。
ですから少なくとも、「フェアの注文をとる」と考えるのではなく、売り場のある一定スペースを書店の担当者さんと共同プロデュースするという態度で臨んでみてください。

書店向けの営業を始めて日が浅い方や、今ひとつ書店受けが良くないと感じている方は、効率を無視して個別の書店にフィットする企画を考えるということを、自己訓練としてやってみるのも良いでしょう。
日頃自分がいかに単品のことしか考えていないかに気付いてしまったり、(他社のものも含めて)たくさんの本の中である本を売るためにはどうしたらよいのかということに関するヒントがつかめたりするかもしれません。

この業界に関わっているほとんどの方は、必ず他社の商品を見て参考にしてはおられます。しかし、その場合も単品として見がちです。この企画はオイシいと か、このタイトルをナニすればどうなるかとか、様々に考える訓練はよくしているわけですが、あくまでもそれはある単品同士のことになりがちです。
本はそれだけの理由で売れていくものでもありません。

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この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。