『忌わしき者の城』グレン・クック:私的な古本屋さん

投稿者: | 2010年11月27日
忌わしき者の城〈上〉 (ハヤカワ文庫FT) 忌わしき者の城〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)
グレン・クック,Glen Cook,船木 裕 早川書房
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わざとカバー裏の解説文を全文転載してみる。
もうこれだけで、なんと言うか「ファンタジー耐性」のない人はげんなりしてしまうだろうと、思わず苦笑してしまうが、まあ我慢してひと通り読んでみて下さいな。

上巻のカバー裏解説:
かつては力ある魔道師ナカールのもとで栄えた都市カシュマラー。だが、そのカシュマラーもいまは大国ヘロデに征服され、市中にはヘロデ軍の傭兵として警備 にあたるダルタル人があふれていた。そんななかで、子供だけを狙う連続誘拐事件が発生した。恐慌をきたす市民たちをよそに、カシュマラーの元軍人たちは、 〈将軍〉と呼ばれる人物を中心に地下抵抗組織リヴィング党を結成し、政権の奪回をめざして画策をはじめた…。
下巻のカバー裏解説
リヴィング党の首魁〈将軍〉が暗殺された。犯人は、魔道師ナカールの城に隠れ住んでいる〈魔女〉だった。しかも〈魔女〉は、市中を騒がせている誘拐事件に もかかわっているらしい。彼女はいったい何をたくらんでいるのか? 一方〈将軍〉を失ったリヴィング党は、新たな指導者のもとでカシュマラー奪還に向けて 最後の闘争を繰り広げようとするが…。都市の支配権をめぐる鮮烈な争いを描く、人気作家入魂の意欲作!

話としては(ファンタジーものとしても)独自性がとくに高いというほどではないし、実際をそのストーリー、おはなしのスジの面をなんとか知らせようとするとやっぱり上のようなことになってしまうのだけれど、この本は読み進めると意外な良さに快く期待を裏切られる。
魔女だの魔道師だのの側ではなく一般人がとてもいい味を出している。そもそも政権奪回をめざす組織が一般市民には支持されずに孤立気味でありながら一方で は社会の裏の色々なところで隠然たる力を持つ「顔役」的な存在でもあったりする妙に現実的な生活感覚が、まずある。たまたま子供が誘拐事件に巻き込まれて しまった親が子供を助けたい一心で大きな事件に巻き込まれていき、最後の最後は魔法だのなんだのというより、人間の、家族の、気持ちの強さこそが結末を決 めるという(言うのも照れくさいが)けっこう感動させられるあたりへ突き進んでいく。

「名作」「傑作」と持ち上げるまでのものではないのかもしれないけれど、読んでみれば決して損をしないかなりいい拾いもの。