商品を詳しく知っておく

投稿者: | 2011年3月12日

今まで書いてきたこととも、もちろん密接に関係しますが、とにかく紹介しようとする商品については詳しく知っておきましょう。著者の経歴、表紙デザインの予定、などは即答出来るようにしておいてください。
類書が多いサブジャンルに属する商品の場合には特に、他社の本となにが違うのかという「売り」を明確にしなければなりません。
たまに、そのようなことを問いかけると「まだ資料が営業に回ってきてないんで分からないんですよねぇ」と堂々とおっしゃる方もいますが、これはまずいでしょう(笑)
たとえそのような事態があなた個人の責任ではなく、編集部との連携の問題であったり、営業支援のような部門の仕事の遅れに原因があるのだとしても、 自社商品を営業しようとするいじょうは言い訳にはなりません。営業をしている時はあなたが、あなたの会社全体の唯一の代表者です。
資料がないことが分かっていたら、社内の関係部門に自ら問い合わせて、ごく簡単なものでもいいから何か情報をつかんでから営業に出るというような気持ちを持ってくださるとうれしいです。

用語や理論

特別なビジネス用語や外来のビジネス理論などが使われている本の場合には、ごく簡単でよいので、それについて説明出来るように準備しておいてください。
書店員の側の勉強不足と言われればその通りですが、書店員も人間である以上あらゆる流行や新理論を漏れなく追いかけているというわけにもいきません。特に 海外発祥の全文カタカナのような用語は漢字の場合とは違って、字面から推測することすら出来ない場合が多いのでお手上げです。
「企業会計に関する、アメリカで最近唱えられている新しい理論です」「人事に臨床心理学を取り入れるということのようです」といった、ごく簡単な説明でもけっこうです。仕入れの判断材料となるように、問いかけられたら説明出来るようにしておいてください。
コンピュータ書など、時に専門性の高くなりがちなジャンルの場合も同様です。新しい用語とともに新しい概念も次々生まれてくるジャンルですから、概要だけでも説明できるように準備してください。

人文系の場合には「流れ」重視

人文系やサブカルチャー系の新刊の場合も、書店員個人が強い興味を持っていない限り、ある程度説明を受けないと判断しにくいケースが多いでしょう。
こういった場合は、理論や用語そのものの説明よりも「流れ」を説明しましょう。どんな雑誌を主な活躍の場にしている、誰の影響を受けている、誰の著作と重なり合う読者層を持っている、などといったことを書店員の反応を見ながら説明します。
この時、系統樹を遡るように説明をしていくのがコツです。
特定の他の著者の名を出して相手が首をかしげていれば、それらの著者達を包括するグループについて遡って説明する。それでもまだ分かっていないようであれば、何年頃にどのようなムーブメントがあったのだが、というような、そのグループそのものの発祥まで遡 って説明する、というふうに、相手が知っていることが出てくるまで遡っていくのです。
どこかで知っていることが見つかれば、あとはある程度自力で系統樹のある時点から以降の動きや、今営業されている本のポジションを把握してくれるはずです。

たかが一冊の本のために

たかが一冊の本を仕入れるためにそこまで細かな情報が必要なのか?と思われるかもしれません。
やや専門的なジャンルの場合には、上記したように、実際に必要なことも、あります。ですから、それらの質問に丁寧に答える必要は、もちろん、あります。
しかし、書店員がやたらと細かなことを問いかける時は興味は持っているが決断をするためのきっかけが見つけられないでいる時であることがほとんどだということも、知っておくと良いでしょう。
それまでに得た情報の中に、何か突出して「よし仕入れよう!」と思わせるものが見つけられないでいる時、書店員はやたらと質問をします。
つまり、前回お話しした『「こうすることが良いことであろう」と自分自身を説得する』ための材料を必死で探している時なのです。
そんな時の書店員をよく観察していると、だんだん質問が細かくなるだけでなく、質問の前後関係がポンポン飛ぶことが多くなることにも気付くでしょう。
「なるほどテーマはそういうことなんだね・・・えーと、予価はいくらだっけ?あ、そう。」そしてまた内容の話に逆戻りしたり、小見出しの見本をめくり直したりし始めたりする、というのはけっこう典型的なケースです。
こうなったら詳しい説明を延々と続けるよりも、なにかその書店員の背をポンと押してあげるうまいひと言の方が、より必要なのだ、ということにも気付いてください。
「大体こういう××は××なんだけど、今ひとつ××なことが多くてねぇ。もう少し○○にすればよいと思うんだけれど、どこもやらないね。あれは何年だったかな、ほら……」
というような否定的な総括をベテラン書店員がふいに蕩々と語り始めることもあります。重大な危機です。
あなたが紹介しようとしている個別の商品を見捨てて、ジャンル全体に対する不満を総括することで、仕入れをしないという決断をするように自分(と、多分あなたも)を説得し始めています。
蘊蓄や歴史解説に感心している場合ではないので「勉強になります」などと頭を下げつつ、全力で脱出口を探しましょう。

帰社後にフォロー

もし相手の質問にその場で答えられなかったら、帰社後に FAX やメールで回答を送ってみましょう。そこまでのフォローを実践している方は、実はほとんどいません。
好感度が、ぐんとアップする可能性があります。
回答の内容そのものよりも、そのように誠意を見せるという行動そのものが、おそらく高く評価されるでしょう。

※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。