大書店の資料で営業しない

投稿者: | 2011年3月13日

大書店の資料を示すだけでは・・・

詳細なデータが入手出来る対象が限られているという現実は、理解しているつもりですが、某大手チェーンの資料や取次のジャンルランキングをただ示されても、それだけでは書店員は案外感銘を受けていない、ということは知っておいてください。
このことは中・小の書店を訪問する場合には、特に重要です。
中・小の書店は、立地・客層などの違いによって特定の本の売れ行きが全国平均と比較して大きく異なることが少なくありません。
全国的にはベストセラーの上位にラインクインしていたとしても、とある立地・とある客層の書店ではほとんど売れないこともある、というのはまぎれもない事実です。(もちろん、その逆もあります)。
ですから「○○で一週間にxx冊も売れました」「△△で先週のジャンル別のxx位です」というデータは、そのままでは仕入れを決断させる決定的な動機にはなりません。
少しでもまともな書店員なら「うちの、この売り場で売れるのか?」ということをいつも考えているからです。
中・小書店の書店員の中には、ひがみ半分なのかもしれませんが、大手での実績資料を示されるとそれだけで機嫌が悪くなる人もいます。
もっとひどい場合には「売れてる売れてるって言ったってね、そもそもうちには配本もなかったし、いくら注文しても入ってこないじゃない」と逆に怒られてしまうことさえあります。
ひがみではないにしても、「あの○○で一週間にxx冊しか売れなかったのか」とか、「あの○○でひと月にxx冊ということは、実はたいして売れていないということではないか」などと、冷静に計算をしてしまう人もいます。
「○○でxx冊ということは、実力の差からしてうちでは売れてもせいぜいxx冊だな・・・じゃあ、いらないや」とかえって仕入れをやめる理由を与えるというようなことにもなりかねません。

データは細かく見てこそ興味深い

生のデータを丸々コピーして見せたり渡したりしてくださる版元さんも多いですが、これはいささか考え物です。
生データそのものは確かに貴重ですが、そこには各々の版元さん自身の分析はなにも加わっていません。
生データの引き写しだけれど、独自に見やすく整形した上に自社商品の行など強調ポイントを派手に色づけしたフルカラー版の表、というものを拝見したこともあります。
これなどは(大変失礼ながら)そこまでの手間暇をかけるのであれば、その労力や時間をもっと別のことに振り分けるべきではなかったかという感想しか浮かびませんでした。
今現在訪問している書店がどのような立地・客層であるかということを一切考慮せずに「こんなに売れているんですよ。仕入れてくださいよ」と、まるで仕入れないことがとんでもないことであるかのように迫る営業さんも、少なくありません。
ひどい方になると「トーハンのxx書ジャンルで1位です」とただそれだけを誇らしげに口にして、当然番線を押してもらえるだろうと目を輝かせて待っている方なども、実際におられます。
二大取次で、というあまりに巨大なくくりでは、「日本では現在女性人口の方がが多い」というあまりに広範囲かつ漠然とした資料だけを基に何かを決めさせようとしているようなものです。
平成15年4月に公開されている総人口で見ると確かに女性の方が多いですが、年齢別にさらに詳しく見ていくと女性の方が多いのは実は50代以上だけで、49歳以下では全ての年代で女性の方が少ないことが分かります。
男女差が最も激しい(最も女性が少ない)のが20~24歳、次いで15~19才、そして25~29才です。
ほら、こうしてみて初めて皆さんも「・・・ということは」「オヤオヤそれなら・・・」と、何かを思ったり、考えたりするでしょう?
何も思わない、思わせないデータは、ただの数字の羅列です。

データは「売れ行き」を示してこそ動機を引き出せる

売れ行き』とは「商品などの売れ具合。売れ方」の事です。
国語辞典にもそう書いてあります。
すでに確定した、過去の売れ実績のことではありません。
何を今さら言い出すのかとお思いでしょうが、このことをはっきりと意識してデータを扱っている方が思いのほか少ないように思うからです。
3週前には100位だった、2週前には35位だった、先週は5位だった、という事であれば、これは間違いなく三週に渡ってジャンプアップし続けているという、売れ「行き」です。
3週前には18位だった、2週前には24位だった、先週は20位だった、ということであれば、三週に渡ってほとんど不動のランクを維持し続け、今後も強力なロングセラーになりうる可能性をもっているという、売れ「行き」です。
またたとえば、5位以内に初めてランクインしたのが○○地区で、次にxx地区、その次の週に△△地区というデータがあるなら、その商品がどのような地区や客層に順次広がって行っているかということを推察できる、売れ「行き」です。
「売れ行き」が示せれば相手の心の中に仕入れをしてみようか、という動機を形作ることが出来ます。仕入れを促す説得を行うことが出来ます。

データはあくまでも生素材

「売れ行き」ということで示したものは、もちろんごく初歩的なデータの扱い方です。社内でもっともっと高度なデータ分析をされている方も、沢山おられることでしょう。
しかしそれらの努力が、書店営業の現場にもじゅうぶん活かされているでしょうか?あるいは、実際に現場を回る営業の方々に対して、分析結果の中で書店を説得することに役立ちそうなものを説明と共に渡しておられるでしょうか?
データはあくまでも生の素材です。
いきなり目の前に日干し煉瓦を積み上げて見せたからといって、それだけで相手がいそいそとピラミッドを造り始めてくれるわけもありません。
そのデータから何が読みとれるかを示すことで相手の中に仕入れの動機を生み出させる。地域性を考慮した上で、その店舗に対して意味のある提案を出来るデータをより分ける、といった努力を加味しないかぎりデータは「日干し煉瓦の山」のままです。

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この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
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