熱意のあまり、あるいは単に勇気がなくて、辞去するタイミングを見つけられない人がいます。お互いに大切なことは語り尽くしたと思われるけれど、どうもうまいタイミングで辞去出来ない。
書店員は忙しいですから、たとえ相手がまだ話を続けそうであっても、適当なタイミングでキッパリと辞去してあげてください。
辞去するタイミングを逃さないためには、そもそも営業を始める最初から、この店ではどのようなことをどのような順番でするか、自分である程度きちんと組み立てておきましょう。
とても失礼な誤解かもしれませんが、どうも、営業の組み立てをほとんど考えずに現れ、成り行きで話し続けている人がけっこういるように思います。
新刊Aを勧めるために世間で話題になっているアノことをちょっと持ち出したあとでAの具体的な説明に入り、その直後に一緒に並べて欲しい既刊Bがかつてど れだけの実績を上げていたか(あるいはすでに何回重版をしているか)に触れる…というような、営業の基本的な流れをあらかじめ組み立てておきましょう。
あなた自身の営業の組み立てというものを確立し、途中で予定外の話題に踏み込んでも、常に自分が目指すゴールに向かって上手に軌道修正するようにしましょう。
それを強引と思われるのではないか、と必要以上に心配する必要は、ほとんどありません。
あなたも書店員も、仕事をしているのです。取引であり、交渉ごとです。
書店員もそのことは分かっています。分かっていない書店員がいたら、分からせる、くらいの心づもりで大丈夫です。
なかなか自信が持てないかもしれませんが、本当に上手な営業というのは受ける方も気持ちがいいものなのです。
3分で話せるか?
「あなた自身の営業の組み立てというものを確立する」といっても、具体的にはどうしたら良いでしょう?
まず、営業したいと思うポイントを3つに絞ります。例えば新刊A,既刊B,フェアCですね。次にそれを3分以内で話せるかどうか、実際に声に出して自分で試してみてください。
3分以内ということは、ひとつのポイントに関して1分以内ですね。
これを「長すぎる」と感ずる人も、逆に「短かすぎる」と感ずる人もいるでしょうが、ここではあえてその時間に合わせるということを優先してみてください。 なぜなら、自分がしゃべりたいようにしゃべるのではなく、一定時間内に相手に伝えるべきことを伝え切る、という訓練だからです。
3分で話しきれなかったら、削ってもいいものは何か、を考えてください。
3分が余ってしまうようだったら、より効果的・印象的にするには付け加えても良いのは何か、を考えてください。
この練習を一度でもやってみると、自分の話術がいかに成り行きまかせでデタラメかということがよく分かります。
少なくとも、昔私自身が一定時間内に一定内容の話を相手の頭にたたき込む必要に迫られて、時計で時間を計りながら何度もやってみた時には、いかに自分がダメかつくづく思い知らされました。
しゃべっているうちに、自分がしゃべっていることそのものの面白さや興味にひかれて無駄にしゃべったり脱線したりする悪い癖があるという自覚から始まり、効果の薄い言葉をいくつも繰り返し語っていて効果の強い短い言葉を探す努力をしていない、締めの言葉が 定まらずに話してきたことを正しくまとめられない、などの問題点山積。
ついでに、話している内容と関係のない身振り手振りをしすぎ(話の内容を正しく強調するためになんら役立っていない身振り手振りが多すぎる)ということまで気付かされました。
皆さんも、一度だけでよいのでやってみて下さい。
たくさんの発見があります。
実際の営業現場では3分である必要はありません。しかし、練習は3分というギリギリの状態でやってみることを強く薦めます。その方が冷静に自分を見つめられます。
強引だと思われないためには
ある程度「脚本」に従って営業を事前に組み立て、出来るだけその脚本からそれないようにするとなると、どうしても「強引だと思われないか?」ということが気になると思います。
どうしたらそういうマイナスの印象を与えずにすむでしょうか?
相手の話をよく聞くことです。
「未承諾広告になるな」ということを以前述べました。相手の立場・事情・個性・願望などを尊重し、それにふさわしい提案を適宜できて初めて営業です。
全ての基本は、まず相手の話よく聞くことです。
あまりに単純ですが、これが上手に出来ない方が多いです。
それも、ただ「うんうん」「はいはい」と聞けば良いということではありません。
例えば、次のようなことをやってみて下さい。
- 自分の意見を述べる前に相手の意見を聞く。
- 相手の発言に対して、「(相手の発言)ですか?」と自分で言い換えをせずに質問をする。
- 相手がそれに対してさらに詳しく(あるいは繰り返して)答えてくれたことを、またそのまま質問や感嘆の形で「(相手の発言)なんですね?」「なるほど(相手の発言)ですか」などと繰り返す。
- …以下、続く。
このやり方には、二つの重要なポイントがあります。
まず、相手の意見を質問や感嘆の形で繰り返すことで「私はあなたの意見を本当に良く聞いています」と目に見え、耳に聞こえる形で相手に示しています。単なる相づちより効果的です。
さらに、相手に肯定的な気分になってもらえるというのが、もう一つのポイントです。
相手の発言を繰り返しているわけですから、あなたの発言や質問に対する相手の答は、原則として常に肯定になります。
たとえ否定になったとしても、それは(あなたが自問自答する時のように)誰か他人に対する反発を感じて否定しているわけではなく、自分自身の発言に対する訂正です。
繰り返し肯定的な返答をしていると、あなたに対して親近感と肯定の気分を強く持つようになります。自然と強引だとは思わなくなり、自分自身が主導権をもっているように感じてもらえます。
警告:大切なのはテクニックではない
上にあげたのは、あくまでも「一例」です。
単調に繰り返すばかりではあまりにもわざとらしくなり、相手をかえって不快にさせます。
間違った使い方をすれば、不愉快の誘導尋問にさえなってしまいます。
しかも、すでに気付いた方もあるでしょうが、例に挙げたやり方を厳密に守っていると、「話を進める」ことはほとんど出来ません。つまり楽しく会話することはできても、セールスは出来ないのです。
話を自分が望む方向へ進めるためには、相手のある発言に対しては繰り返すにとどめるが、ある発言に対してははっきりと「○○といいますと?」などと質問に する。「○○ですか。××ですねぇ」なととあえて言い換えを混ぜ込む。などということを適切な間合いを計って行わなくてはなりません。
これはもう、意識的な訓練を必要とするとても高度なテクニックです。安易に「このテクニックを使おう」と思ったりしないでください。
まず同僚の方との日常の会話ででも、こっそり練習してみてください。
最初は、一切自分からは意見を言わない、という枷を自分にはめてください。自分からは意見を言わず、相手の言葉に同意したり質問したりだけをひたすら繰り返すことでも、実は会話は成り立ちます。成り立つという事実をまず知ってください。
普段自分がいかに「私は・・・私は・・・」というような発言の仕方ばかりをしているかにも気付くでしょう。
今回例に挙げたような「テクニック」を身につけることが一番大切なのではありません。
自分の営業の仕方や話術を一度意識的・分析的に見直してみることには、高い効果があるということに、まず気付いて欲しいのです。
「テクニック」はあくまでも、そのずっと後のことです。
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「この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
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