自社本の悪口を言わない

投稿者: | 2011年3月16日

書店員が売れ行きに影を落としそうな問題点を見つけて指摘した時、つまり、タイトルの付け方がどうにも納得がいかないとか、値段が高すぎるとか、なぜ今頃になってこのテーマの新刊を出すのかとかいったことを指摘した時、思わず社内の悪口を言ってしまう人がいます。
編集が頑固だとか、仕事の連携が悪くてタイミングを逃したとか、果ては「自分は絶対反対だと意見したのだけれど結局こうなってしまった」とか。
その書店員さんととても親しくなっているのでなければ、出来るだけそのような言い方はやめましょう。
あなたがどのような不満を抱いているにせよ、あなたは社を代表して営業においでになっているわけです。そのあなたが自社の本や社内の人間の悪口を言ったと ころで、厳密には、あなたが取り引きしようとしている相手には関係ありません。それはあなたが代表している社内の問題です。
宅配便が 3日も遅れて届いたのであなたがクレームを言うと、配送員が突然社内体制批判を語り出したらどうします?

伝えますを安易に連発しない

「編集に伝えます」とか「次の営業会議で話します」とかの言葉を安易に連発するのも、あまり薦められません。
そう言った時のあなたは、心からこれは何とかしなければいけないから伝えよう、話そう、と思っていたかもしれません。それを頭から疑っているなどということはありません。
しかし、取引相手である書店員は、いつかは実際に改善が為されることを望んでいるのです。
何度も同じ指摘を受け、何度も同じ答えをしていると、結局は信用されなくなります。
本当に編集に伝えなければ、営業会議で何らかの改善案をまとめなければ、と思うのであれば、実際に(ほんの小さなことでも良いから)結果を出す覚悟がなければいけません。その覚悟がなければ、安易にそのような発言を繰り返すべきではありません。

結果だけが全て

これは、書店営業職という小さな範囲に限らず、熱意も才能もある人が陥りがちな大きな罠です。
熱意も才能もある人には、今現在の不満足な結果がよく分かります。
どこがどのように悪いのか、分析する能力もあります。そして、それらに対する改善案もすぐにいくつか思いつくことが出来ます。
けっこう。
けれども、すべきことはなんでしょうか?
それを実現させることです。
それを実現させるためには、いくつもの障害が横たわっている?
確かに。
けれども、すべきことはなんですか?
それらをなんとしてでも乗り越えて、結果を得ることです。

世界はあなたを待っていない

あなたがどんな大天才であったとしても「世界はあなたを待って」などいません、残念ながら。
優れた才能がいかに貴重であり、それをどれほど待望しているかと語られることは多いですが、その言葉を鵜呑みにしてはいけません。優れた才能が生み出すであろう結果に期待しているのであって、優れた才能が入社してお茶を飲んでくれることを期待しているわけではありません。
待望されているのは結果だけです。
なんとしてでも実現させようと決意した時、気がつくと、かつてあんなにも嫌い、批判しまくっていた「コネ」や「派閥」を利用している自分に気がついてうんざりするかもしれません。
誤解受けたり頑固な保守派から批判を受けるだけならまだしも、かつて精神的な同志と思っていた人々からさえ批判されるかもしれません。あなたがあまりにも「政治的」になりすぎた、などと。
しかしあなたが本当に得なければならないのは、目に見え、手で触れる「結果」です。あなたが「いいやつだ」とか「頭のいいやつだ」という評判ではありません。
「よくやった」という言葉を期待して行動してはいけませんよ。
得られた結果は、たいていの場合、単に、当然のことのように見えるものです。当然そうあるべきだったからこそ当然としか見えないことの方が、圧倒的に多いのです。
あとで少数の、あなたの本当の理解者だけが、そっと誉めてくれるかもしれません。あなたのエゴはそれだけで満足しなければいけません。
覚悟を持って発言をしなければいけない、と私が言うのは、そういう意味です。
行動する覚悟を持って発言する習慣を早くから身につけないと、結局はあなたの熱意と才能を自ら腐らせることになります。
腐れかけてから気がついて慌てた私自身が言うのですから、間違いありません(笑)

書店員の望みは単純

書店員の発言を、意地悪、と感ずることもあるかもしれませんが、多くの書店員はただの意地悪で批判をしたり、意見をしたりはしません。
書店員の望みは単純です。本がより多く売れることです。しかし書店員は自分で本を作ることは出来ません。出版社さんに作っていただくしかないのです。
自分が直接本づくりに手を下せないいらだちのために、時に書店員の言葉は限度を超えて辛辣になったり、自分勝手になりすぎたりすることもあります。
また、ほとんどの書店員は出版社さんの実務の現場を知りません。ですから、どう考えても見当違いであったり、実現不可能であったりすることを平気で発言する場合もあるでしょう。
お詫びします。
しかしそれでも、根本は変わりません。作っていただくものが出来るだけ良いものになるように、強く望んでいるだけなのです。
この点に関しては、書店員と出版社の望みは全く同じです。

※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。