業界内での現状の俯瞰
電子メールはすでに「使える」か
前回の最後に:
電子メールを利用できる状態になっている書店は次第に増えてきています。「利用できる状態になっている」ということと、活用できるだけのスキルを持った人 材が社内にいるということは別ですから、今現在の段階でFAXを電子メールにどんどん置き換えて行くべしとは言えません。
と申し上げました。
さて、実際問題として、電子メールやインターネット上のページは営業支援ツールとして「使える」段階に入っているでしょうか?
結論を先に言えば、十全に使いこなすレベルに達している人はまだ少ないが、それらが便利であるという認識は相当に広まっている、というのが現状の姿でしょう。
業界内に限定すれば、漠然とにせよ「インターネットってなんか便利だよね」という認識を広めるのに貢献したのは、間違いなく s-book.net でしょう。
s-book.net が仕入れに現実的に役立つことが認識されるようになって以来、書店員のパソコンやインターネットに対する関心は急速に高まりました。
それまでパソコンやインターネットに対して拒絶反応を示していた人々や、関心はあっても漠然とであるにすぎなかった人々が、日々の仕事に直接役立つ道具で あるということが分かってからは、最低でも s-book.net だけは必ず使いこなす(使いこなそうと進んで努力する)ようになりました。
留意すべき基本的なこと
使いやすくて役に立つこと
s-book.net が受け入れられたのには、おおざっぱに言って二つの理由があったと思われます。
ひとつは、なんといっても、それがはっきりと目に見えて役に立ったからです。在庫確認の精度や入荷スピードに関して、これまでの他の手段と比べて明確な差が体感できました。
s-book.net がいかに利用促進に力を入れても、実際に役に立たなかったら人々の認識を変化させるほどの力を得ることは、決してなかったでしょう。
もうひとつは、s-book.net の使いやすさです。
ここでまず、あえてはっきり申し上げますが、s-book.net であっても WEB サイトの作りは、高レベルであるとは到底言えません(見た目のデザインという意味も、操作手順などの設計という意味も含みます)。
しかし、注文が完了するまでに何度も何度も別々の小窓を開いていかなければならないひどいインターフェイスの某版元主催の受注ページと比べればずいぶんとましです。
また、実際には直に書名や著者名で検索をすればいくらでも個別に調べられるのに、それが出来るということが非常にわかりにくいためにおそらくとても損をし ている(売れ行き良好書リストからの受注ばかりに偏るという意味で損をしている)別の某版元主催の受注ページ、などと比較しても、ましです。
あくまで業界内での背比べですが、その中では s-book.net は使いやすさは上です。
読者にs-book.netの関係者の方がいらっしゃいましたら、失礼な強調の仕方をしていることをお詫びします。
評価しているからこそ、より良くなっていただきたいと思っているとご理解いただければ幸いです。
ご連絡をいただければ、具体的なご指摘とご提案をさせていただきます。
役に立ち、使いやすいものならば受け入れられる、というのは当たり前のことです。しかし、パソコンやインターネットが絡むと、なぜか多くの人がつい忘れがちなことでもあります。
単に「営業活動に電子メールを取り入れました!」では書店側に、それに対応していこうという動機がありません。
たとえばFAXよりもこのような面でより役に立つ、より簡単だ、などの具体的なメリットが感じられる必要があります。
相手に寛容に、自分に厳しく
電子メールなどを営業支援に積極的に利用しようとするのであれば、版元さんの側にはそのようなデジタル技術全般に正しい常識を持った人材が必要です。
そして、その知識や技術のレベルは、ごく平均的な人々のよりも、高いことが望まれます。専門家やヲタクのようにものすごく詳しい必要はありませんが、せめてごく平均的な人々よりも「やや高い」ことは望まれます。
なぜでしょうか?
いまさら言うまでもなく、「相手に寛容に、自分に厳しく」はビジネスの基本ですが、デジタル技術全般を業務に取り込む時にも、それをきちんと当てはめる必要があります。
電子メール活用の技術に未熟だったためにこれこれのミスをしましたというのは、サービスを提供する側である場合には、言い訳にはなりません。
また、サービスを利用する側(この場合は主として書店さん)が、時としてあきらかに未熟なためのミスを犯すことがあったとしても、むしろそのようなミスを誘わないようにあらかじめ考慮するというくらいの態度が望まれます。
ちょっとした一例を挙げます。
本来返信を想定していない、単に新刊情報を流すためだけの(一方通行のみしか想定していない)メールを配信しているとします。
しかし、中にはより詳しい情報が知りたいとか、極端な場合にはメールそのものの内容には全く関係なく御社に連絡を取りたいということでそのメールに強引に 返信をする方がいる可能性は常にあります。たとえ「このメールに返信されてもお返事は差し上げられません」と文面に書いてあっても、です。
強引に返信されたメールは長いこと誰にも気付かれなかったり、単にエラーとして処理されてしまったりするでしょう。
本来返信を想定していなくても、返信先に営業部や営業部内の特定の個人を仕込んでおく(Reply-To: xxx@xxxxを入れておく)ことで、たとえ例外的に返信が発生しても、確実に営業部でその内容を把握することが出来ます。
このようなことをあらかじめ慎重に考慮するためには、デジタル技術全般についてある程度の量の知識と、常識を備えていることがどうしても必要です。
電子メールにまつわる暗黙の期待
前段までは、どちらかというと「さほどデジタル技術全般に習熟していない人々を相手にする場合」が想定されています。
逆に「すでにある程度デジタル技術全般に馴染んでいる人々を相手にする場合」にどのようなことが起こりうるかも考えておく必要があります。
すでにプライベートなどで電子メールを積極的に利用している人の場合、電子メールというコミュニケーション手段に対して、暗黙のうちに以下のような期待を持っています。
メールは反応が素早い
長くても「同日内」遅れても「24時間以内」、早ければ「数時間以内」に返信が来るものだ、という漠然とした期待を持っている場合がほとんどです。
本来電子メールであることと返答の早さには本質的な関係はないはずです。しかし、友人知人とのやりとりや一部の企業のサポート部門の素早い対応を経験することで、一般的に電子メールでの問いかけに対してはかなり素早く返答が来るという意識が出来上がっています。
この期待を裏切ると「ひどく遅い」という実際以上のマイナス評価を受ける危険性があります。
社内業務の実態を考え合わせ、現実にはどのくらいで返信できるかをあらかじめ検討しておく必要が出てくるかもしれません。
「数時間以内に返答」という(勝手な)期待には応えられないということがあらかじめはっきりしているのなら、たとえば送信するメール全てにあらかじめ『最大48時間以内にお返事を差し上げます』などの文面を明記しておけばよいのです。
そうしておけばすでに24時間経ってしまっていても相手は「まだ予定の半分」と判断してくれます。逆にそのようなあらかじめのことわりがなければ、24時間を超えて返信がなかったらおそらく相手はかなりいらだち始めるでしょう。
メールは気やすい
これもやはり、電子メールであるということとは本質的には関係がないはずですが、多くの人が、電子メールは既存のコミュニケーション手段よりは「くつろいだ、親しい」ものであるという印象を持っています。
電話ではいきなり話しかけられない、話しかけること自体をためらう相手でも、電子メールなら出せる、という心理的な敷居の低さもあります。
実際私個人もサイト内でオンラインソフト紹介コーナーを設けたりしているので、まれにそのソフトの作者ご本人からいきなりベータテスト依頼などのメールをいただくことがあります。
これは手紙や電話では、あまり起こらないことです。
他者の紹介や社会的な手続きを省略していきなり特定の個人対個人のコミュニケーションに入っても許される可能性が高い、という期待は、少なくとも電子メールに限っては、かなり強いものです。
ですから送信/返信を常に会社名や部署名など抽象的な署名で行うことは、暗黙の期待を裏切ります。
メールには暗黙の礼儀正しさがある
「気やすさ」の一定のレベルを誤って踏み越えると今度は急に「ぶしつけである」と反発を受けることになります。
メールは、気やすくはあるけれども突然の電話ほどは強引ではない、とも考えられています。
つまり、電話のように自分の現在の活動を強制的に中断させたり、事前にコミュニケーションを望むかどうかを主体的に判断する権利を奪ったりはしない、という暗黙の礼儀正しさがある、と考えられています。
その一線を踏み破ると、強い反発を受けます。
「突然のメールで失礼します!」という書き出しのメールくらい「本当に失礼だな!」と思うものはありませんし(笑)、「今後このメールがご不要でしたらxxx宛てご返信下さい」という文面くらい「勝手に送っておいてなんだよ!」と反発を感ずるものもありません。
簡単に発信できるようになったという自分の側の都合だけを優先させ、言葉の上でだけ丁寧なつもりでいるこのようなメールは、私生活では腹立たしく捨てているはずです。
しかしいざ発信する側になると、同じことをしてしまいがちです。
電子メールは魔法のツールではない
電子メールは道具のひとつにすぎません。
得られるメリットとそのためにかかる手間や経費を秤にかける必要も出てくるかもしれません。
次回以降、そのような点も考えあわせながら、電子メールを営業支援ツールとして取り入れる場合の具体的なご提案を述べていきます。
※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
「この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。