全てを肯定的に

投稿者: | 2011年3月27日

不況が長引く昨今、景気の良い話はそうそう無いのが現実ですが、営業に取りかかったら出来るだけ肯定的な気分を作り出すように努めましょう。
のっけから時候の挨拶がわりに「いやぁ、売れてませんねぇ~」などとのたまう方もおられますが、よほど親しくなって気心の知れている書店員さん相手でない場合はやめておいた方が無難でしょう。
上記の例(「いやぁ、売れてませんねぇ~」)は事実を正直に持ち出すことで互いの緊張感を解くテクニックであるという風に一定の評価をすることも出来ます。しかし、その後の気分がお互いに否定的になってしまうという点ではあまり勧められません。
他社の物であっても、それなりの動きをしているものを話題に持ちだしてみたり、本ではなくても、今後の展開が期待される流行や事件に話題を振ってみるのも良いでしょう。
友人と「何を食べようか?」という相談を始めた時「最近は何もかも食べ飽きたし、アレは高いし、コレは安いけど安いなりのまずさだし・・・」という会話から始めてしまうと、食べたい!という熱意が冷めてしまってなかなか決まらない、というのと同じことです。
今行ける距離にない店であっても、あるいは今はとてもそんなお金はなくても「あれは美味しかったねえ」と無理を承知で笑いあいながら会話を始めた方がずっと気持ちがよいでしょう。

些細な部分も肯定的に

ほんのちょっとしたフレーズにも気を配りましょう。
たとえば、ひととおり新刊や売れ行き良好書を紹介し終わった後は、かなり多くの書店員が「他には?」とか「他にには何か?」と訊くことでしょう。単なる習慣的な確認であるにせよ、思わずそういう風に言う書店員が多いでしょう。
それに対してかなり多くの営業さんが「いえ、他には特に」と答えます。
「他には特に」という言葉は、他に特筆すべき物はなにもない。今紹介した物以外は注文していただく価値のない物ばかりだという否定的な意味合いを隠し持っています。
それよりも「これで十分です、ありがとうございます!」とか、あるいはもっと簡単に「大丈夫です!」と答えてみましょう。
これらの言葉は『もうこれ以上注文していただく物はない』という同じ事実内容を伝えてはいますが、同時に私(版元)は十分満足したとか、注文して下さったあなたのお店はコレは大丈夫だ(十分な売上げが経つでしょう)、というような満足感と安心感を伝えるメッセージにもなっています。

否定的な言葉を排除することの価値

あまりな些細なことだと思われるかもしれません。
確かにそうかもしれませんが、そのような細部での肯定的な気分の積み重ねが、結局は営業全体の雰囲気を大きく左右するのです。
こんな経験はありませんか?
あるビジネス書を読んだ。そこで述べられていることそのものは正しいと思う。おぼえておいて、自分も実践する価値のあることだと思う。
けれども、なんだか素直に従う気分になれない。何よりも、本を読み終わって閉じた時に、にっこり出来ない。
なぜなんだろう?
かなり多くの場合、そのような本は否定形で終わる文章が多すぎるのです。
「××は~してはいけない
「~と考えているようでは~ではない
厳しく読者の慢心を戒め、注意力を喚起しようとするあまり、否定形が頻出する文章になってしまっていると、読者は次第にずっとしかられ続けている小学生のような気分になってきます。ラフな言い方をすれば「へこんで」しまうのです。

  • 全く同じ内容を肯定形で書くことが出来る場合は、否定形は使ってはいけません。
  • 全く同じ内容を肯定形で書くことが出来る場合は、出来るだけ肯定形を使いましょう。

どちらの言われ方が、気持ちがいいですか?素直に、そうしてみようかな、と思えますか?
それは本当に小さな差で、自分ならこのくらいのことを言われても全然平気だよ、と思う方も多いでしょう。でも、この調子で10回、20回と続いたらどうでしょう。ページをめくってもめくってもこんな調子だったら、どうでしょう。
ひとつの文章、ひとつの言葉だけではなく、それが積み重なった時の影響というものは無視できません。

書店は何をしたいのか

書店さんは本当は何をしたいのか、ということを初心に立ち返って考えてみましょう。
アレも要らない、コレも売れていない、と否定的な言葉ばかり浴びせられてうんざりしてしまうかもしれませんが、では書店はそもそも本を仕入れないことを望んでいるのでしょうか?そんな馬鹿なことはあり得ません。
書店は、売れ行きが見込める本なら、仕入れたいのです。
のどから手が出るほど、それが欲しいのです。
これに関しては相手がどう言おうと、版元の営業さんであるあなたは絶対の確信を持ってことに臨んで大丈夫です。
書店さんの多くは、膨大な新刊と不況に気分的に押しつぶされて、仕入れの食欲不振に陥っています。そして否定的な言葉を口にしすぎることで自分自身をより否定的な気分に追い込んでしまいがちです。
だからこそ、まず、書店さんの胃袋を新鮮な気分にさせる、つまり「食べたい」という本来の欲求を取り戻させることに力を注いでみましょう。
安心感、充実感、前向きな欲求、好奇心、といった肯定的な雰囲気を作ることに努めましょう。
あなたの言葉の隅々から、否定的な要素をこまめに排除しましょう。

※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。