棚在庫の営業

投稿者: | 2011年4月1日

その冊数は棚に収まるのか

その冊数の根拠は何

熱心に棚在庫のチェックをして「抜け」をこまめに補充してくださるのはいいのですが、それが現実には棚に収まりきらない量だ、というケースは比較的多く見かけます。
そんなとき書店員は反射的に、怒りを感じてしまいます。

棚の現実を見ないで仕事をするとは何事か。仕事は現場で行われているんだぞ。そもそも「抜け」ってなんだよ。それは単に版元が置いてもらいたいと勝手に思うもののリストにすぎず、この店舗にふさわしいリストから抜けているものがあるという意味じゃないだろう。
…というようなわけです。
不当な怒りだ、という場合も多々あります。
しかし、この場合一番問題なのは、書店員の態度が不当なのかどうかということではありません。

説明と同意

これこれの理由でこれだけの点数を置いてもらいたいのです。これこれの理由でこの商品はあなたの店舗にふさわしいと思われるので置いてもらいたいのです。
このような説明をきちんと行い、同意を得た上で受注をしていれば、棚に収まりきらないということだけで書店員が怒り出すことは、普通はありません。
発注の時点で書店員は頭の中で収まりきらない分をどの商品を外して納めるかを、漠然とにせよ、あらかじめ考えるからです。
そもそも説明を受けて、自分自身が同意したのですから。

この「説明と同意」の手順を踏んでおくことは、とても大切です。
忙しそうだからというので「抜けを入れておきます!」というだけで済ませてしまったりすると、いざ品物が入荷してきた時に書店員の方がすでに全く忘れていたりします。
「こんなに頼んだっけ?」→「全然棚に収まりきらないぞ。こんなに頼んだはずはないな」→「頼んでいないはずだから返しちゃえ」という(一部偽りの自己説得を含んだ)思考回路で、適当に返品、最悪の場合、丸ごと返品してしまう場合もあります。
これでは営業としてのあなたの仕事が報われないだけでなく、その品物が流通する全ての過程が無駄になり、品物そのものもきわめて不当な扱いを受け、全員が損をします。
このことは「書店員に仕入れ数に関して責任を分担してもらう」という考え方で、「短時間で効率よく」の補足の項目で書いていることにも通じます。

信頼を得るには

返品提案

書店員がその営業さんを信頼するかどうかを判断する目安のひとつに、自社商品の返品を積極的に勧めるかどうか、ということがあります。
新しい年度版が出ているのに古ものが残っているというような、ある意味機械的な理由で「こちらは返品をしてください」というようなことではありません。
数回の訪問に渡ってその店の他の状態がどうであるかを調べた上で
「もう×ヶ月これとこれは動いていないようです。もしかすると○○(サブジャンル)は弱いのかもしれませんね。こちらの一連のシリーズに置き換えて様子を見ませんか?」
というような提案を含んだ返品を勧めてくる場合には、その営業さんに対して信頼感が非常に高くなります。

より売れるであろう商品を置くことを勧める、というだけではじゅうぶんではありません。
それでは死に在庫を抱えたまま全体の棚在庫が膨れあがることになるからです。
全体量は変えずに、より売れ効率を高める提案をするためにあえて返品を勧めてくるという、リスクを負う態度を示すことが、高い信頼感をもたらすきっかけになります。

必ず同量の返品をしなければならないわけではない

基本的な信頼を得た後は、棚在庫の全体量をふやす提案をすることも可能です。
なぜ現在置いてある品目に加えてさらに別の品目を置くことを勧めるかという理由がちゃんと説明できれば、書店員は受けいれる用意があります。
昨今はどの書店でも激しい「在庫削減」に夢中という気配もありますが、書店員はべつにどんなばあいでも在庫を増やすことを嫌っているというわけではありません。そもそも在庫削減そのものが最終目的なのであれば、何一つ置かずに全点客注対応に切り替えればよいのですから。
シェア確保や自社の看板として利用したいだけだなと感ずる時に、強い反感を持つだけです。

念のために付け加えておきますが、返品の提案を必ずしなければならないと言っているのではありません。
書店員がその営業さんを信頼するかどうかを判断する目安のひとつだというお話しです。

それは誰の仕事か

言いたいことは何となく分かるけれど、ある部分は、本当は書店の担当者さんがやるべき仕事じゃないの?と思った方もあるでしょう。
冊数が多すぎて棚に収まり切らないという話だって、営業がチェックをつけたものの冊数を見れば担当者には分かるはずで、その時点で「どうしてこのリストアップなのか」という問いかけを積極的にすればいいんじゃないの?
何を返品するのかということだって、それこそその店の特性を一番把握しているはずの担当者が決めるべき仕事なんじゃないの?
それを怒るとかなんとかって、ちょっとわがまますぎない?

実はその通りです。
私としては、手伝ってあげてくださいとお願いするだけです。

書店員は無理な効率化(言ってしまえば無理な人減らし)によって、年々忙しくなる一方です。売り上げも来店客数も減っているのに書店員個人個人は忙しくなる一方という書店は珍しくありません。
熱意と知識のある書店員であっても、現実には棚の隅々までメンテナンスしきれないという場合がだんだんと多くなっています。そして、むしろ熱意と知識のある書店員ほど、人手が不足する中でより多くの仕事を引き受けざるをえないという図式もあります。
せめてそのような人々を手伝ってあげて欲しい。
売り上げを伸ばすという目標は共通しているのだし、熱意と知識のある書店員さんは(自分で全てに手を下す時間はなくても)提案を正しく、素早く評価する力はあるはずです。
手伝ってあげてください。

※ご注意:一部の記事は書かれた時期が古いために現状と合わない場合があります
この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
そのため一部の内容は業界の常識や提供されているサービス・施設等、また日本の世間一般の現状と合わない可能性があることにご注意下さい。