誠意につきる
営業先で相手と信頼関係を築くために必要なことはなんでしょう?
完璧な敬語や礼儀正しさ?
気軽なお友達口調やくつろいだ雰囲気?
いいえ、それらは「あとから」外に現れてくるものです。
なんの「あと」から?
誠意です。
ある人が、敬語の使い方を少しも間違えずに流れるように語り、隙のない礼儀正しさを身につけていても、それそのものは、その人を信頼するための保証にはちっともなりません。
その証拠に「慇懃無礼」という言葉があります。
表面上はとても丁寧でも、内心では相手を軽くみている様子のことです。
あなたも一度くらいはそういう経験をしたことがあるはずです。文句のつけようのない言葉遣い・態度だけれども、なんだかバカにされているようでやたらと腹が立つ相手に遭遇してしまったことが。
ではそれは妙に「堅苦しくてご立派な態度」をとられたことそのものが原因なのでしょうか。気軽なお友達口調で話しかけてくれればそんなことはなかったわけでしょうか?
それも違います。
どんなにお友達的な雰囲気が演出されていても、相手があなたの本当の友達ではなければ、やっぱり信頼など出来ません。だって友達じゃないんですから本当にはあなたのことを気にかけてなどいないかもしれません。
さっきまで親しげにしてくれていても、自分の都合最優先でさっさとどこかへ行ってしまったり、あなたがしたくないことを「楽しいから絶対しよう」と言い張ってどこかへ強引に連れて行かれるかもしれません。
いいと思っていることを押しつけることとの違い
どんな態度でも、どんな話の進め方でも、そこに「あなたのことを真剣に気にかけている」というメッセージが込められていなければ、信頼することは出来ません。
「自分が何をしたい」ではなく「あなたにとっていいことをしてあげたい」という態度が、誠意というものの根本です。
たとえ個別に提案されてくるものの全部が全部あなたの気に入ることはなくても、相手が常にあなたのために努力したいと思っているという軸がぶれることがなければ、相手を信頼することが出来ます。
あなたと彼が暑い夏の日にドライブに出たとしましょう。(男女逆に読み替えてくださっても、もちろんけっこうです)。
暑くてのどが渇いて何かを飲みたいと思ったとします。
その時彼が店や自動販売機を探して車を止めてくれ、冷たい飲み物を買ってくれるのは「普通」です。
「夏だからと言って冷たいものばかり飲んではいけない。熱いお茶を飲もう」と言い出すのは、彼が単に自分自身が健康マニアでそれを他人にも実践させたいと思っているだけだという可能性が高いです。
どんなに詳しく説明してくれても、多分それは「彼がしたいこと」です。
ひとまずあなたの望み通り冷たい飲み物を買ってくれるけれども、あなたの体調を気遣って「次に停まった時は暖かいものもいいと思うよ」と言ってくれる彼は、多分、誠意があります。
(…多分、です。男女関係ですから保証は出来ませんが)。
- あなたの欲求を、特に深く考えずに、即刻かなえてくれる。
- あなたの欲求とは関係なく、自分が良いと信じていることを布教してくる。
- あなたの欲求をより深く考えて、さらに良いのはどんなことか提案してくる。
この三つの違いが分かりますね?
特に二番目のケースは、他人からそうされると鬱陶しいと分かっているのに、自分が他人に何かを勧めようとする時は思わずやってしまうことが非常に多いです。
実は誠意の方が得です
そうは言っても常に「誠意」だけでは仕事にならない、と思う方も多いでしょう。
もっともらしい反論なのですが、それは間違いです。
相手の望むこと以外をすれば、それ以後相手はあなたを警戒します。
複数回になれば信頼しなくなります。
あなたは常に新しい相手を捜すことになります。
確かに世の中にはたくさんの人がいますから、次から次へと新しい相手を捜し、一度きりで乗り換えていくことは可能でしょう。しかし、新しい相手にあなたを信用してもらうにはそのたびに手間・時間・お金がかかります。とても無駄が多いのです。
それが、世の中に成功した詐欺師があふれかえっていない(むしろとても少ない)理由です。
ひとりひとりの顧客と信頼関係を結んで長くつきあってもらった方が、トータルで見ればずっと得です。
「自分は間違いなく誠意の固まりのつもりで営業をしているんだけどしょっちゅう断られる。そんなにうまくいくものではないんじゃないの?」という疑惑を持つ方もおられるでしょう。
もっともです。
でも、少しだけ勘違いをしているかもしれません。
次回は、そのことについてお話ししましょう。
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「この文書の趣旨」でもご紹介しているように当コーナーが本にまとまったのが2008年(実際に原稿をまとめたのは2007年暮)なので、多くの記事はそれ以前に書かれています。
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